第11章 ピアノチャンピオンを打ち負かす

早朝、工藤みやびは起きたばかりで、学校からの電話を受けた。

寮に住まないなら、寮に置いてある荷物を引き取るように言われた。

荒木雅が家から追い出された後、藤崎家のおばあさまが彼女を藤崎家に迎え入れた。

藤崎雪哉の美貌に惹かれ、彼女は交通事故の後遺症を口実に、長期休暇を取って数ヶ月も学校に行っていなかった。

彼女が学校の寮に急いで行くと、寮母は荷物はすでに同室の中山里奈に渡したと告げた。

工藤みやびは心の中で罵詈雑言を抑えた。家でテレビを見れば中山美琴の娘が出てくるし、学校に来れば中山美琴の姪が彼女の荷物を押さえている。

中山里奈は最近「帝都青少年音楽コンクール」で優勝し、今や栄誠中学校のイメージ代表となっていた。

学校の女子生徒たちは彼女を崇拝し、教師や学校の指導者たちも彼女を甘やかし持ち上げていた。

工藤みやびは荷物を取り戻すため、テレビ局のインタビューを受けている中山里奈を音楽室に訪ねた。

しかし、中山里奈の学生ファンの群れに外に押し出され、ドアさえ入れなかった。

教室の外の女子生徒たちはピアノの前に優雅に座る中山里奈を見て、皆羨ましがっていた。

「里奈先輩は学校一の美人で、ピアノもこんなに上手いなんて、まさに栄誠中学校の女神よ。おそらく2年もしないうちに有名なピアニストになるわね。」

「もしかしたら歌手になるかもしれないわ。そうなったら、私は一番のファンになるわ。」

「それに、前の芸術祭での今井律先輩との合奏、まさに絵になるカップルだったわよね。」

「今井律先輩は誰に対しても冷たいのに、里奈とだけは少し親しそうよね。もしかして既に恋人同士なのかしら?」

「美しくて才能があって、さらに律様のような財閥の御曹司を彼氏に持つなんて、里奈先輩はまさに人生の勝ち組ね。」

……

工藤みやびがどうやって中に入って中山里奈から荷物を取り戻すか悩んでいるとき。

音楽教師の本田麻裕が出てきて、教室のドアの前で尋ねた。

「テレビ局が里奈と他の生徒のピアノ対決の映像を撮りたいそうよ。学校の宣伝ビデオに使うから、音楽科の生徒、誰か来て。」

しかし、音楽科の女子生徒たちはお互いを見合わせるだけで、誰も進み出ようとしなかった。

最近、音楽教師は中山里奈のコンクール指導のために彼女たちの授業さえ行っていなかった。

今度は中山里奈の引き立て役をさせようなんて、よく考えたものだ。

音楽教師は誰も志願者がいないのを見て、テレビ局のスタッフと相談しようとしたとき、工藤みやびが群衆の中から手を挙げた。

「私がやります!」

「いいわ、こっちに来て。」

音楽教師は志願者が現れたのを見て、すぐに彼女を呼び寄せた。

しかし見ると、彼女は音楽科の生徒ではなかった。

「ピアノは弾けるの?」

「数年習っていました。」

音楽教師はそれを聞いて彼女を教室に連れて行き、メイクの直しをしている中山里奈に向かって言った。

「里奈、この生徒と少し協力してね。」

中山里奈は横目で見て、軽蔑的に笑った。

「あなたの何年も放置したピアノの腕前で、今でも弾けるの?」

工藤みやびは彼女の嘲笑を無視して、「寮に置いてある私の荷物を返して。」と言った。

「返せって?」中山里奈はメイクを終え、挑発的に冷笑した。「いいわよ、もしピアノ対決で私に勝てたら、返してあげる。」

工藤みやびは歯を食いしばった。以前から中山里奈は竹内薫乃と一緒に荒木雅をいじめていた。

今はピアノコンクールで優勝したからといって、さらに傲慢になっていた。

中山里奈は彼女が怖じ気づいたと思い、声を低くして言った。

「怖いなら、あなたのガラクタは捨てるしかないわね。あの中には…あなたの亡くなったお母さんの遺品もあるんでしょう。」