第110章 不意打ちの甘さ

工藤みやびが車のドアを開けると、助手席に置かれたバラの花に気づき、一瞬呆然とした。

藤崎雪哉はそれを手に取って彼女に渡した。「来る途中、花屋を見かけたから、ついでに買ったんだ」

彼女は花を抱えて車に乗り込み、藤崎雪哉が車の前を回って反対側から乗り込むのを見ていた。

「……花、とても綺麗。ありがとう」

こんな大雨の中、随分と「ついで」にしたものね。

道中、藤崎雪哉は運転しながら電話で仕事の対応をしていた。

彼女は彼が電話を切るのを待って、外の大雨を見ながらつぶやいた。

「迎えに来なくていいって言ったのに」

藤崎雪哉は横目で彼女を見た。「僕は怖かった……夜になって君が恋しくなって、会えなくなるのが」

彼らが一日で会える時間はもともと少なく、夜に家に帰ってからの数時間だけだった。

彼はこの貴重な時間が雨のせいで無駄になるのを望んでいなかった。

「……」工藤みやびは不意に甘い言葉に心を撃ち抜かれた。

車の外は土砂降りだったが、車内はなぜか温かく甘い雰囲気に包まれていた。

工藤みやびは真剣に運転している男性をちらりと見た。「私……一つ質問してもいい?」

「いいよ」

「覚えてるけど……一ヶ月ちょっと前まで、あなたは私を見るだけで吐き気を催してたのに、今は……変わるの早すぎない?」工藤みやびは慎重に尋ねた。

以前は彼女を見るだけで気持ち悪がっていたのに、今では彼女にプロポーズしたり、愛を語ったりしている。

こんなに自分の言動を覆すのは、痛くないのだろうか?

荒木雅の記憶から、彼女は完全に感じ取れた。あの時の彼は彼女を見るとき、まるで嫌いなゴキブリを見るような目をしていた。

藤崎雪哉は彼女の質問に一瞬黙り込み、少し自嘲気味に笑った。

「正直言うと、自分でもなぜこうなったのか分からない」

確かに以前は彼女を見るだけでうんざりしていたのに、数日後に彼女を見たとき、彼の心はコントロールを失っていた。

彼は彼女に会うのを楽しみにし始め、彼の視線は無意識に彼女を探すようになっていた……

彼は決して優柔不断な人間ではなく、これらに気づいた後。

彼は知っていた、この女の子を……絶対に手に入れると。

「分からない?」工藤みやびは眉をひそめた。