第110章 不意打ちの甘さ

工藤みやびが車のドアを開けると、助手席に置かれたバラの花に気づき、一瞬呆然とした。

藤崎雪哉はそれを手に取って彼女に渡した。「来る途中、花屋を見かけたから、ついでに買ったんだ」

彼女は花を抱えて車に乗り込み、藤崎雪哉が車の前を回って反対側から乗り込むのを見ていた。

「……花、とても綺麗。ありがとう」

こんな大雨の中、随分と「ついで」にしたものね。

道中、藤崎雪哉は運転しながら電話で仕事の対応をしていた。

彼女は彼が電話を切るのを待って、外の大雨を見ながらつぶやいた。

「迎えに来なくていいって言ったのに」

藤崎雪哉は横目で彼女を見た。「僕は怖かった……夜になって君が恋しくなって、会えなくなるのが」

彼らが一日で会える時間はもともと少なく、夜に家に帰ってからの数時間だけだった。