真夜中になってようやく、工藤みやびは『長風』の原作小説を読み終えた。
翌日、時間通りに石橋林人と合流し、オーディション会場へ向かった。
オーディションに来たのは、彼女のような業界新人だけでなく、少し名の知れた俳優たちもいた。
石橋林人はオーディションに参加した俳優たちを一通り見回し、台本を彼女に渡して言った。
「主役の男女はもう決まっている。小倉穂の役は、できる限り頑張ってみて。」
映画俳優には才能と鍛錬が必要だ。荒木雅は驚くほど美しい容姿をしているが、結局年齢が若すぎるし、演技を専門的に学んだこともない。
今日競争相手となるのは、この業界で数年経験を積んだ俳優が何人もいる。
特に、去年金鳳賞の最優秀助演女優賞にノミネートされた女優、北川秋の姿も見かけた。
だから、荒木雅には確実にチャンスがないだろう。
「うん。」工藤みやびは台本を受け取り、熱心に読み始めた。
台本は小倉穂が主人公と再会するシーンで、2分以内で演じることが求められていた。
『長風』の中で小倉穂は悪役の女性脇役だが、劇中では常に男装している。
小倉家一族が惨殺された後、復讐のために幕府に身を寄せ、幕府のために人を殺す鷹犬となった。
主人公は彼女が若い頃に旅先で知り合った侠客で、彼女が慕っていた相手でもあるが、主人公は彼女が女性だとは知らない。
この再会は、彼女がヒロインの家族を暗殺するよう命じられた時で、主人公はヒロインを彼女の手から救い出した。
一族の滅亡、自らの手に血を塗り、かつて好きだった男性との再会、これは映画の中で小倉穂の演技力が試される重要なシーンだった。
彼女は何度か台詞を黙読し、立ち上がってトイレに行った。戻る途中、キャスティングディレクターとアシスタントがオーディションを終えたばかりの北川秋を丁寧に見送っているのを目にした。
「木村監督、小倉穂の役は北川秋に決まったんですか?」アシスタントが尋ねた。
今日オーディションを受けた多くの俳優の中で、北川秋の演技だけが監督の承認を得た。去年最優秀助演女優賞にノミネートされた女優だから、演技力は当然合格ラインだ。
「早めに北川秋の事務所と契約を結んでくれ。彼女は最近スケジュールがかなり詰まっているから。」キャスティングディレクターは指示した。