藤崎雪哉は会社に行かなかったが、家に残っても処理すべき仕事が山積みだった。
工藤みやびがリビングで台本を読んでいたので、彼も仕事をリビングに持ってきた。
彼はソファに座って書類を見ながら、時々カーペットの上で真剣に台本を読んでいる少女を見やった。
それぞれが自分のことをしていたが、どこか穏やかな日常の感触があった。
ただ、このようなデートは、恋人同士のデートとは到底言えなかった。
工藤みやびは数シーンのセリフを読み終えると、立ち上がって水を一杯注いで戻ってきて座り、藤崎雪哉をちらりと見たが、思いがけず視線が重なってしまった。
藤崎雪哉は目を伏せて書類を見続け、何気なく一言尋ねた。
「一昨日の夜、小沢子遠に会ったから酒を飲んだのか?」
工藤みやびは二秒ほど固まり、後ろめたさを感じながらカップを持って一口水を飲んだ。