第184章 藤崎雪哉が歌った誕生日の歌

撮影クルーの誰もが知っていたが、藤崎千明の実の兄は藤崎グループの社長である藤崎雪哉だった。

しかし、藤崎雪哉がこの映画村の古びた三つ星ホテルに現れるとは誰も信じられなかった。

藤崎雪哉が彼らの前に歩み寄ってきて、ようやく皆は我に返った。

安藤泰監督は微笑んで、藤崎雪哉に挨拶した。

「藤崎社長、お忙しい中、三の若様の撮影現場を訪ねてくださったんですね。」

藤崎千明は呆れた顔をした。彼が撮影を見に来たわけではなく、彼の彼女に会いに来たのだ。

彼がこの業界に入って何年も経つが、撮影どころか、病院に入院しても一度も見舞いに来なかったのだ。

今日彼が撮影現場に来たのは、彼女の誕生日だからで、デートに来ただけだ。

「ああ。」藤崎雪哉は群衆の中に立つ工藤みやびをちらりと見て、淡々と返事した。