藤崎家の本邸には藤崎お婆様がいるため、藤崎雪哉が一緒に帰ってきても、彼女と同じ部屋に住むことはできなかった。
さらに、家の使用人が藤崎奥様に告げ口するのを防ぐ必要もあった。
そのため、二人は他人の前では、お互いに無視し合っていた。
夜になると、マネージャーの石橋林人から電話があり、正式に『追跡の眼』の主演契約を結んだと伝えられ、来月から撮影が始まるとのことだった。
藤崎千明もちょうどマネージャーからの電話を受け終わったところで、彼女が電話を切ったのを見て尋ねた。
「役をもらえたの?」
工藤みやびは頷いた。「もらえたわ」
こんな役さえ手に入れられないなら、将来何で堀夏縁を打ち負かすというのだろう?
「くそっ、あの莫って奴、男三号の役さえくれなかった」藤崎千明は激怒した。