藤崎家の本邸には藤崎お婆様がいるため、藤崎雪哉が一緒に帰ってきても、彼女と同じ部屋に住むことはできなかった。
さらに、家の使用人が藤崎奥様に告げ口するのを防ぐ必要もあった。
そのため、二人は他人の前では、お互いに無視し合っていた。
夜になると、マネージャーの石橋林人から電話があり、正式に『追跡の眼』の主演契約を結んだと伝えられ、来月から撮影が始まるとのことだった。
藤崎千明もちょうどマネージャーからの電話を受け終わったところで、彼女が電話を切ったのを見て尋ねた。
「役をもらえたの?」
工藤みやびは頷いた。「もらえたわ」
こんな役さえ手に入れられないなら、将来何で堀夏縁を打ち負かすというのだろう?
「くそっ、あの莫って奴、男三号の役さえくれなかった」藤崎千明は激怒した。
「なぜ?」工藤みやびは眉を上げた。
彼のあの日の演技では、主役は無理だろうが、二番手や三番手なら可能性はあったはずだ。
「俺の外見がキャラクターに合わないって言われて、直接落とされた」藤崎千明は勢いよく水を一杯飲み干し、コップを強く置いた。
「イケメンであることも、罪なのか?」
ドーナツを食べていた藤崎千颯はそれを聞いて、すぐに反論した。
「兄貴がいる家で、お前がイケメンだと言えるのか?」
「兄貴ほどじゃなくても、お前よりはイケメンだ」藤崎千明は甘いもの中毒の藤崎千颯を嫌そうに見た。「見てみろよ、二重あごができかけてるぞ」
大の男が甘いものをこんなに好むなんて、本当に我慢できない。
「お前に関係あるか」藤崎千颯は睨み返した。
「糖尿病になるのが怖くないのか?男なのに甘いものばかり食べて、少しは男らしくできないのか?」藤崎千明は嫌悪感を示した。
藤崎千颯は最後の一口を食べ終え、矢継ぎ早に反論した。
「人生は苦いんだ、少しくらい甘いものを食べちゃいけないのか?」
「お前は外で気ままに暮らして、仕事がどれだけ辛いか知らないだろう、特に兄貴の下で働くのは…」
「俺は仕事で生きた心地がしないのに、お前はしょっちゅう俺を困らせるし、甘いものを食べることさえ許さないのか、俺がお前のものを食べたか?」
……
藤崎千明は耳をこすり、この饒舌な次兄に少し辟易して、すぐに降参した。