第345章 堀夏縁と同じ舞台で競演2

工藤みやびと堀夏縁は礼儀正しく握手を交わし、それぞれ後ろに用意された録音室へ向かった。

彼女が到着した時、藤崎千明とマネージャーの石橋林人もやって来ていた。

「二人とも何しに来たの?」

「応援に決まってるじゃん」

藤崎千明はさっきまでの眠そうな様子から一変し、自分が出場するよりも興奮していた。

「全力を出して、あいつの顔に思いっきりぶつけてやれ」

あんなに見栄を張っていたなんて、彼はもう長い間我慢していたのだ。

「言われなくても、そのつもりよ」

工藤みやびはそう言うと、ハイヒールを脱いで録音室に入り準備を始めた。

藤崎千明は彼女がすぐに録音を始めようとしているのを見て、慌てて止めた。

「ちょっと待って、原作のシーンを探してくるから、まずそれを見て感覚を掴んで」

工藤みやびは彼を一瞥した。『命果てぬ夢』のセリフは全て暗唱できるが、見ないのも少し怪しまれるかもしれない。

そこで、彼が原作のシーンを見つけ出すのを待ち、一度見た。

それから、数分間台詞をじっくり見て、感情を醸成させた。

「準備できたわ」

「もう少し準備して、そんなに急がないで」

藤崎千明は諭すように言った。こんな重要な勝負なのに、たった10分で準備ができるわけがない。

工藤みやびは携帯を取り出し、石橋林人の目を避けながら千明の前でちらりと見せた。

携帯には藤崎雪哉からのメッセージが届いていて、彼女を迎えに来る途中だと書かれていた。

藤崎千明はため息をつき、仕方なく石橋林人と一緒に脇に下がった。

「じゃあ、始めて」

彼女に全力を尽くしてもらい、あの女優を打ち負かして溜飲を下げたいと思っていたが、

どうやら兄との約束の方が重要なようだ。

最初はこんなに気楽に構えて、ただの脇役のつもりだった。

しかし、彼女が声を出し始めるとすぐに二人は呆然とした。これは本当に彼女の録音で、映画のオリジナル音声ではないのか?

『命果てぬ夢』の名シーンのセリフだけを録音すればよかったので、セリフは3分しかなく、すぐに終わった。

彼女は台本を置き、靴を履いて、脇で呆然と立ち尽くす二人を見た。

「もう行かないの?」

藤崎千明と石橋林人は我に返り、信じられないという表情で彼女を見つめた。

「あの...さっきは何か変なものに取り憑かれてたんじゃない?」