藤崎千明は彼女との通話を終えると、車のキーを持って石橋林人を探しに行き、彼が崩壊して死にたくなっている現場を見物するつもりだった。
「藤崎の次男坊、失恋現場を見に行かない?」
「行くかよ、バカ。こんなに仕事があるのに誰がやるんだ?」藤崎千颯は苦々しく階段を上がった。
兄貴は仕事を山ほど放り出して恋愛に走り、弟は外で遊び回るばかり。この家のために身を粉にして働いているのは自分一人だけだ。
藤崎千明はそれを聞くと、自分で鼻歌を歌いながら出かけ、車で直接千秋芸能株式会社へ向かった。
石橋林人のオフィスに入ると、彼がティッシュボックスを抱えてソファに座り、鼻水と涙でぐしゃぐしゃになっているのが見えた。
「おや、そんなに悲しいのかい?」
藤崎千明は彼の向かいに座り、顔には隠しきれない他人の不幸を喜ぶ表情を浮かべていた。
石橋林人は彼を見るなり、さらに怒りが込み上げてきた。
「お前はずっと雅とお前の兄貴が関係あることを知っていて、わざと彼女を俺に任せたんだろ?」
もともと仕事が終わった後に工藤司の部下に捕まり、彼になりすまして彼の所属タレントをデートに誘い出したのだ。
彼はずっと心配で、工藤司たちが彼女をどうにかするのではないかと気が気ではなかった。
結果、工藤司の部下に裏の物置に縛られ、ドアの隙間から自分の憧れの人が天から降臨したかのように荒木雅を救う場面を目の当たりにした。
しかも口では彼女は自分の女だ、彼女だと言い切っていた……
彼の心は、その場で餃子の具のようにバラバラになった。
「お前自身が言ったじゃないか、俺の兄貴クラスの男でこそ、お前が担当するタレントにふさわしいって」藤崎千明は肩をすくめて言った。
「そう言ったのは確かだけど、本当に付き合うとは思わなかった!」石橋林人は怒鳴った。
長年憧れていた人に、自分は髪の毛一本触れることもできなかったのに、自分が担当するタレントに持っていかれてしまった。
「彼らが本気にならなかったら、まさかお前が俺の兄貴と本気になれると思ってたのか?」藤崎千明は眉を上げて笑いながら尋ねた。
彼にこれだけ長い間嫌味を言われてきたが、今こんな惨めな姿を見ると、すべての恨みが晴れた気分だった。