藤崎雪哉が工藤みやびをドラマの撮影現場に送った夜、帝都グランドホテルに戻った工藤司は一睡もできなかった。
黒田志雄は堀夏縁の情報を追跡するよう人に命じたが、数時間経っても確かな情報は得られなかった。
「帝都は広大で、しかも藤崎家の勢力範囲だ。彼が意図的に人を隠せば、我々が見つけるのは一時的に難しいだろう」
工藤司はバーキャビネットを開け、ウイスキーをグラスに注ぎ、軽く一口飲んだ。
「今はエンタメ記者たちが厳しく監視している。もう探す必要はない。時が来れば彼女を解放するだろう」
「しかし、藤崎家の者が堀夏縁さんに危害を加えるようなことがあれば……」黒田志雄は言いかけて止めた。
工藤家と藤崎家の恨みは、すでに一つや二つの命の借りではなかった。
「もし彼がそこまでするなら、彼の小さな彼女も安泰ではいられないだろう」工藤司の目に冷たい光が宿った。
以前は、彼女が自分の人間だとは知らなかったので、確かに手を下すつもりだった。
しかし今や彼は荒木雅が自分の彼女だと明言したので、慎重に考えざるを得なくなった。
しかし、なぜこんなにも偶然なのか。
あの少女はちょうど雅と呼ばれ、みやびとは異なる文字だが、耳に聞こえる音は同じだった。
雅、みやび……
明らかに二人の異なる人物で、年齢も大きく違うのに、彼は彼女の中にみやびの影をわずかに見出していた。
「藤崎雪哉は2時間前に荒木雅を連れて帝都を離れました」と黒田志雄は言った。
冷淡な性格の藤崎雪哉が19歳の少女を溺愛しているという発見は、彼らの予想を大きく超えていた。
工藤司は手の中のグラスを思案げに回しながら、「今後、荒木雅の動向に注意しておけ」と言った。
「しかし、藤崎雪哉のほうは……」
黒田志雄は少し困った様子だった。藤崎家の勢力範囲内で、藤崎雪哉の保護下にある人物を監視するのは容易なことではない。
そして、藤崎雪哉もそれを許さないだろう。
「日本人を雇って、行動だけを監視すればいい。芸能人なら常に追いかける記者がいるだろう」と工藤司は言った。
黒田志雄は慎重に彼を観察しながら尋ねた。
「では、工藤さんは彼女が藤崎雪哉の彼女だからなのか、それとも…彼女の中にみやび様の影を見つけたいからなのでしょうか?」