しかし、幸いなことに福くんを抱いていたので、彼女は顔の半分しか見せていなかった。
素早く反応して片手で福くんを抱き、もう片方の手で石橋林人と助手の岡崎が物を拾っている間に偽の出っ歯を口に入れた。
石橋林人は物を拾い上げ、顔を上げて彼女と本間夢の二人を不思議そうに見た。
工藤みやびは笑って、自分の大きな出っ歯を見せた。
しかし、石橋林人はまだ眉をひそめて彼女を観察していた。さっきなぜか自分の事務所のタレントに似ていると思ったのだ。
本間夢はその様子を見て、圧倒的な身長差で彼女の前に立ちはだかり、石橋林人に向かって怒鳴った。
「何見てんだよ、人の嫁を見たことないのか?」
助手の岡崎は本間夢がだらしなくタバコをくわえ、無精ひげを生やした姿が、まるで街のチンピラのように見えたので、
石橋林人の袖を引っ張って言った。
「石橋林人兄さん、行きましょう」
石橋林人は数歩歩いた後、もう一度振り返って見た。なぜか後ろ姿も妙に似ているように見えた。
工藤みやびは福くんを抱いて石橋林人の視界から外れると、福くんを本間夢に渡して言った。
「まずい、戻らないと。石橋林人は絶対に疑っているわ」
もし彼が戻って彼女を探しに来て、見つからなければ説明がつかなくなる。
「何を疑うんだよ、お前のそのお化けみたいな姿じゃ、誰も分からないって」と本間夢は言った。
二人が話している間、福くんは怒った顔で自分の母親を睨みつけていた。
「みやび姉ちゃんはぼくの嫁だよ、あなたの嫁じゃない!」
「そうそう、あなたの嫁、あなたの嫁よ」
本間夢は片手で小さな女の子に扮した息子を抱き、もう片方の手でタバコを挟んでいた。
知らない人が見たら、本当に父親が娘を連れているように見えただろう。
「私は先に戻るわ。あなたも気をつけて、師匠が来たらまた連絡して」
工藤みやびは石橋林人が去った方向を見て、少し不安を感じた。
「福くん、お姉ちゃん行くね。今度またあなたに会いに来るから」
福くんはそれを聞いて、すぐに涙目になり、小さな泣き虫になった。
「みやび姉ちゃん、福くんのこと嫌い?」
「好きよ、でもお姉ちゃんには大事な用事があるの」
工藤みやびは可愛らしい小さな女の子のような福くんを見て、苦笑いしながら慰めた。
「じゃあ、ママの嫁なの?それとも福くんの嫁なの?」