大したことではないと思っていた出来事だが、結局、藤崎雪哉は荒木雅にあやされて、怒りもすっかり消えてしまった。
逆に、腹を立てていた藤崎千颯は、毎日二人の甘い姿を見せつけられて辟易していた。
工藤みやびは家で二日間休んだ後、『追跡の眼』の声優を務めることになった。
朝、藤崎雪哉が出勤する時、彼女も一緒に出かけた。
藤崎雪哉は彼女を石橋林人と待ち合わせる場所まで送り、「午後何時に終わる?迎えに行くよ」と言った。
「まだわからないわ。終わったら電話するわ」
「わかった」
藤崎雪哉はうなずき、彼女が石橋林人の車に乗り込むのを見てから、藤崎千颯に車を出すよう指示した。
工藤みやびは午前中に数時間録音し、休憩中にアシスタントがのど飴を持ってきてくれた。
「岡崎さん、のど飴を買ってきてくれる?」
アシスタントも声優の仕事が喉に負担をかけることを知っていたので、彼女の言葉を聞くとすぐに買いに出かけた。
工藤みやびはバッグからアイシャドウパレットを取り出し、その底に隠していた超薄型の携帯電話を取り出して電源を入れ、本間夢たちからのメッセージがないか確認した。
普段の連絡では、彼らは固定の番号を持っていなかった。
ほとんどの場合、見知らぬ人の携帯を借りてメッセージを返し、連絡先の電話番号と時間を残して、時間通りに電話をかければ彼女と連絡が取れるようになっていた。
電源を入れると、一昨日送られてきたメッセージが届いていた。
正午12時に公衆電話にかけるよう、連絡が取れるまで続けるようにとのことだった。
工藤みやびは時間を確認した。正午12時まであと十数分だった。
数十分後、ちょうど12時になり、本間夢が残した電話番号に電話をかけた。
「もしもし、あなたの旦那の藤崎雪哉が狂ったように私を探し回ってるけど、どうなってるの?」
本間夢は電話に出るなり、激怒して尋ねた。
「私たちが会ったことを彼が知ってしまったの」工藤みやびはため息をついて言った。
本間夢はそれを聞いて、心配そうに尋ねた。
「それで、あなたは大丈夫なの?」
「彼は私たちが会っただけを知っているけど、まだあなたの正体は突き止めていないわ。自分で気をつけて。彼はきっとまだ密かに調査を続けるはずよ」工藤みやびは忠告した。
本間夢はそれを聞いて、少し考えてから意味を理解した。