それに、彼女はただ一つのハートマークを作って去っていったわけではなかった。
彼女は数歩歩いては、振り返ってハートマークを作った。
ハートマークを作るだけでなく、さまざまな国の言葉で「愛してる」と告白した。
I love you
サランヘヨ
アイシテル
……
一言言うたびに、ハートマークを一つ。
石橋林人は耐えられずにスーツケースを押して早足で立ち去った。この恋人たちのイチャイチャを見たくなかった。
藤崎雪哉は少女の愛らしい姿を見て、厳しい表情が明るい笑顔に変わった。
彼女が遠ざかり、エレベーターに乗って見えなくなるまで見送ってから、ようやく車に乗って会社へ向かった。
彼女のさっきの可愛らしい姿を思い出すと、薄い唇がまた思わず笑みをこぼした。
石橋林人はエレベーターに入ると、すぐに普段の自分のアーティストの態度に戻り、呆れて文句を言った。