それに、彼女はただ一つのハートマークを作って去っていったわけではなかった。
彼女は数歩歩いては、振り返ってハートマークを作った。
ハートマークを作るだけでなく、さまざまな国の言葉で「愛してる」と告白した。
I love you
サランヘヨ
アイシテル
……
一言言うたびに、ハートマークを一つ。
石橋林人は耐えられずにスーツケースを押して早足で立ち去った。この恋人たちのイチャイチャを見たくなかった。
藤崎雪哉は少女の愛らしい姿を見て、厳しい表情が明るい笑顔に変わった。
彼女が遠ざかり、エレベーターに乗って見えなくなるまで見送ってから、ようやく車に乗って会社へ向かった。
彼女のさっきの可愛らしい姿を思い出すと、薄い唇がまた思わず笑みをこぼした。
石橋林人はエレベーターに入ると、すぐに普段の自分のアーティストの態度に戻り、呆れて文句を言った。
「ねえ、もう社長とあれだけイチャイチャしたのに、別れる時もまだ足りないの?」
「この数日じゃ足りないわよ、一生だって足りないくらいなんだから」と工藤みやびは言った。
石橋林人:「イチャイチャ見せびらかさないでよ、見たくないから」
二人は搭乗ロビーに着くと、岡崎アシスタントの他に、新しいアシスタントがいた。
しかし、全くアシスタントには見えない。小柄で、少し丸顔で、ちょっと可愛らしい感じだった。
石橋林人は小声で言った。「社長が手配した人だ。連れていくように言われている」
おそらく、前回のような事件があったため、密かに手配したボディガードだけでは安心できず、彼らに身近な護衛を付けさせたのだろう。
「こんにちは、荒木さん。私は三浦星安です」
工藤みやびは彼女を一瞥して、笑いながら言った。
「三浦大也の妹?」
三浦星安:「すみません、私は彼の姉です」
「……」
工藤みやびは口角を引きつらせた。あの熊のような体格の三浦大也に、こんなに可愛らしい姉がいるなんて?
本当に彼女を守るために派遣されたのであって、可愛さをアピールするためじゃないの?
三浦星安は彼女が笑いそうな表情を見て、言った。
「私の実力を疑わないでください。彼は小さい頃から私にボコボコにされてきたんですから」
「疑ってないわ、星安姉さん。これからよろしくお願いします」工藤みやびは急いで笑みを引き締めた。