藤崎雪哉は石橋林人が荷物を部屋の中まで運ぶのを断り、自分で受け取って室内に置いた。
「彼女はこちらでの仕事を終えたのか?」
石橋林人は二秒ほど呆然とした。そのことを彼女に聞かないで、俺に聞くのか?
しかし、心の中でツッコミを入れたくても、表面上は笑顔を浮かべて答えるしかなかった。
「もう終わりました。元々の予定でもこの数日のうちに帰国する予定でした」
藤崎雪哉:「彼女は私と一緒に帰る。君は気にしなくていい」
そう言って、ドアを閉めた。
石橋林人はドアを見つめながら口をとがらせた。彼はそもそも気にするつもりなんてなかったのに。
あの二人が会えば、いつも犬の散歩をさせられるような気分になる。彼らがイチャイチャするところなんて見たくもない。
藤崎雪哉が彼女のスーツケースを寝室に運ぶと、工藤みやびはすでに眠っていた。
彼は寝室のドアを閉め、外の部屋に行ってから藤崎千颯との通話を続け、明日の仕事について指示した。
二人が仕事の話を終えると、藤崎千颯が言った。
「今こんな状況なのに、工藤司がまだお義姉さんに近づこうとするなんて」
工藤家が最近どれだけの損失を出しているか考えもせずに、オーストラリアまで追跡ゲームをしに行くなんて。
「最近は厳重に監視して、彼らがヨーロッパで他のパートナーを見つけられないようにしろ」と藤崎雪哉は指示した。
カーマン・ドランスが工藤グループとの提携を中止したので、彼らが損失を埋め合わせようとするなら、ヨーロッパの他の大企業と提携しようとするだろう。
「わかりました。それで…」藤崎千颯はニヤニヤ笑いながら尋ねた。「兄さん、こんなに多くの仕事を任されたら、お見合いに行く時間がなくなりますよ」
藤崎雪哉は二秒ほど考えて、「当面は行かなくてもいい」
うん、彼にお見合いに行かせるよりも、目の前の仕事の方が重要だ。
「了解です。それじゃあ仕事の準備をしないと。兄さんとお義姉さんはゆっくり過ごしてください」藤崎千颯は楽しげに別れを告げた。
藤崎千明のやつは情けない。お見合いに失敗して、この数日間も諦めずに伊藤冬芽さんにしつこく連絡している。
でも、伊藤冬芽さんはそんなに誘いにくい人じゃないのに。
彼と池田輝が誘えばすぐに会えるのに、なぜか藤崎千明のところではそんなに難しくなるんだ。