この後、工藤みやびは毎日外出する時に指輪をバッグにしまい、帰ってくると必ず指にはめていた。
ようやく『微睡の淵』のポストプロダクションの準備が整い、彼女は二日間休むことができるようになった。
藤崎奥様と藤崎お婆様が一緒に電話をかけてきて、仕事が終わったら古い屋敷に戻って食事をするように言った。
「前に映画撮影で疲れすぎて、体調が良くないって検査で出たんでしょう?お義母さんが薬膳スープを作ったから、今夜は二人とも帰ってきて食べなさい。」
工藤みやびは苦笑いした。彼女は家では毎日薬膳スープと漢方薬を飲んで、体中が薬臭くなっていた。
しかし、二人の年長者の要求に対して、断ることもできなかった。
「じゃあ、仕事が終わったら行きます。」
「雪哉にはまだ電話していないから、あなたから一緒に帰るように言ってね。」と藤崎奥様が言った。
「……」工藤みやびは眉をひそめた。
普通なら、息子に電話して、息子から彼女に一緒に帰るように言うべきではないのか?
なぜ彼女に電話して、彼女から息子に一緒に帰るように言わせるのだろう?
彼女は仕事の指示を終え、時間がまだ早いことに気づくと、思い切って直接藤崎雪哉の会社に向かった。
いつものように帽子とマスクをつけ、自分の藤崎夫人の指輪もはめていた。
彼女がエレベーターを出ると、スタッフが彼女を見て急いで近づいてきた。
「奥様、社長はまだ会議中ですが、来られたことをお伝えしましょうか?」
工藤みやびはまばたきをした。「奥様?」
この指輪に「藤崎夫人」という三文字が書かれているのだろうか?
職員は微笑んで言った。
「社長の指示です。あなたがいらっしゃったら、奥様とお呼びするようにと。」
工藤みやびは軽く笑った。「結構です。彼のオフィスで待っています。」
歩いていくと、会社の職員たちは彼女を見るたびに「奥様」と呼びかけ、彼女の心は喜びで満ちあふれた。
彼のオフィスに着くと、しばらく一人で幸せに浸っていた。
30分後、藤崎雪哉が戻ってくると、彼女が自分のオフィスに座って、興味深そうに自分の指輪をいじっているのを見た。
「なぜ知らせてもらわなかったの?」
「私もちょうど来たところよ。」工藤みやびは立ち上がり、手を伸ばして彼を抱きしめた。「お義母さんが今日帰って食事をするように言ってたわ。」
「わかった。」