事件発生!

彼女は再度SNSの投稿を確認したが、ワイングラスに映った腕時計以外には何も見つからなかった。

しかも、その腕時計が神崎翔のものだという証拠もなく、不倫の証拠にはならないはずだ。

......

一方、神崎翔は昼の仕事を終えたところで、海の向こうからの写真を受け取った。

写真の女性は本革のソファに座り、艶やかな黒髪を肩に垂らしていた。白いレースのロングドレスにフラットシューズを履き、細く白い手で膨らんだ腹部を包み込んでいた。彼女は明るい笑顔を浮かべ、化粧っ気のない素顔でも清楚で愛らしかった。

[ダーリン、私とお腹の赤ちゃんは元気よ。ただ毎日あなたに会いたくて仕方がないの]

[仕事ばかりで体を疎かにしないでね。ちゃんと自分の体を大切にして、規則正しく食事を取らないと、私とこの子も心配しちゃうわ]

神崎翔は松本優からのメッセージを見て、少し煩わしく感じた。しばらく考えてから、適当に返信した。

[安静にして出産に備えていてくれ。しばらくしたら会社が落ち着くから、その時はアメリカに会いに行くさ]

[ダーリン、それは素敵ね。私とこの子も待ってるわ]

神崎翔はメッセージを読んだ後、それ以上返信せずに、西園寺绫乃に電話をかけ、しばらく甘い言葉を交わしてから夕食の約束をした。

当日の夜、神崎翔が約束の場所に向かおうとした時、神崎貴美子から電話がかかってきた。彼は仕方なく雅ノ別荘に向かった。

到着すると、リビングで神崎貴美子がソファに座っているのが見えた。

神崎貴美子は彼を見るなり、優雅で整った顔つきが一瞬にして曇った。彼女は神崎翔に冷たい声で叱責した。

「何人があなたを狙っているのか、分かっているの?神崎明彦のことだけでも十分厄介なのに。松本優のことをどうするかも決めていないのに、まだ外で女遊びをするなんて。まさに蛙の子は蛙ね、女から離れられないところも、親子そっくりだわ」

神崎翔は平然と彼女を見つめ、軽く口角を上げた。「母さん、ご心配なく。俺にも分別があるから、問題は起こしません」

神崎貴美子は彼の態度を見て、さらに怒りが込み上げてきた。彼女は断固とした態度で命じた。「すぐにあの女の件を片付けなさい。神崎弥香を追い詰めすぎると、当主様に告げ口されるわよ。これまでの努力が水の泡になるのは望まないでしょう!」

神崎翔はネクタイを緩め、だらしなくソファに座り、軽く返した。「彼女にそんな度胸はありません」

神崎貴美子の目に鋭い光が走った。「この数年、あなたが神崎弥香にどう接してきたか、私も分かっているわ。どんなに彼女があなたに尽くしていても、諦める日が来るはずよ。私はあなたより女心が分かるわ。女とは時に甘やかさなきゃダメなの」

神崎翔の目に軽蔑の色が浮かんだ。「あの女を甘やかす?五年前のあの件は、業界中の誰もが知ってることだぞ。神崎財団の社長であるこの俺が、他人に弄ばれた女を甘やかすなんてありえない」

「……」

短い沈黙の後、神崎貴美子は前に進み出て、軽く彼の肩を叩いた。

「当主様の体調は日に日に悪くなっているわ。おそらく二年ももたないでしょう。今、神崎家の重要な事業は全て彼の手の内にあるけど、将来どう配分されるかは、彼の気持ち次第よ。大事を成し遂げるには、こんな小事は些細なことでしょ。神崎弥香を懐柔できれば、私たちは半分成功したも同然。しばらくの辛抱だけよ」

神崎翔は眉をひそめ、目に悔しさが浮かんだ。「お爺様が一体何を考えているのか、さっぱり分からないな。かつては財界を支配した人物なのに、年を取って判断力が鈍ったのか。藤上家なんて海浜市では没落家系に過ぎないのに、なぜ俺に彼女との結婚を強いたのだ。まさかあの馬鹿げた口約束のためだけに?」

神崎弥香は鈴村昌也の孫娘で、鈴村昌也と神崎山雄は生死を共にした親友だった。二人の子供が生まれた時から、婚約が決められており、鈴村昌也は今はもういないが、神崎山雄は約束を守り、豪華な結納品を用意して神崎翔に弥香を娶らせた。

「もう結婚したのだから、今さらそんなことを言っても仕方ないでしょう。神崎財団で足場を固めたいなら、私が今言ったことを覚えておきなさい」

神崎貴美子は心血を注ぎ、半生をかけて謀ってきた。この重要な時期に誰かが躓くことは絶対に許さないつもりだ。

彼女は神崎翔の目を見つめ、厳しく問いただした。「松本優の件、どうするつもり?」

神崎翔は眉間に皺を寄せた。「酔った勢いで彼女と関係を持ってしまった以上、俺が責任を取るべき。まずはアメリカで出産させて、神崎財団での地位が安定してから、彼女と子供を国に呼び寄せるつもりです」

「あの時、松本長治はあなたの父の代わりに暴徒の刃を受けて死んだのよ。だから私は松本優を引き取って育て、学校にも行かせ、一般人だった彼女に、令嬢として暮らせるようにしてあげたわ」

神崎貴美子は意味深な目で神崎翔を見つめ、注意を促した:「外で囲っておくのは構わないけど、それ以外は論外よ。もう30歳近い大人なのだから、どうすべきか分かるでしょう」

神崎翔は腕時計を確認し、冷ややかな表情で答えた。「分かっています。ご心配なく。彼女はあの出自ですから、社長妻にしてあげるなど。考えたこともありません」

「明後日、神崎弥香を連れて本邸に来なさい。当主様は話があるそうよ」

「また何かあるんですか?」神崎翔は眉を上げ、いらだちを見せた。

「三神大奥様が故郷に帰省するそうよ。三神家の御曹司も一緒だそうね。数日後に三神家が海浜市でプライベートパーティーを開くそうだけど、もちろんうちも招待リストに入っているわ」

神崎翔は一瞬驚いた。「母さん、それって帝都市一の大富豪である三神家の大奥様と、あの御曹司の三神律のことですか?」

「ええ、当主様が本邸での食事に呼んだのは、この件について相談するためよ」

神崎翔はかねてより、この名声高き都会の御曹司との交際を望んでいた。しかし彼は極めて神秘的な人物で、業界の集まりや付き合いには一切顔を出さなかった。今回のめったにない機会を得て、神崎翔は即座に承諾した。

神崎貴美子が用件を伝え終えると、彼は立ち上がり、別荘を後にした。

車に戻ると、彼は疲れた様子でこめかみを揉みながら、電話をかけた。

「藤上宇一の最近の動きを調べろ。何人か派遣して、彼に少し困った事態を作ってやれ。具体的なやり方は分かるな」

電話を切ると、彼は冷たい目を細めた。本邸での食事会で、彼は神崎弥香に対して優しい態度を取るつもりはない。彼女の弱みは知っている。それは藤上家だ。

藤上宇一というトラブルメーカーが問題を起こすたびに、彼女は必ず低姿勢で助けを求めてくる。今回も例外ではないはずだ。彼は神崎弥香が自ら助けを求めてくるのを待っている。そうすれば、条件を出して取引できる。彼女に本邸で仲の良い夫婦を演じさせ、三神家のパーティーに参加させることができる。

神崎翔は嘲笑うように口角を上げた。神崎弥香は凧で、彼は凧を操る主人だ。彼女がどれだけ遠くへ、高く飛んでも、彼が糸を軽く引けば、おとなしく戻ってこなければならない。

深夜二時、神崎弥香が眠りについている時、執拗な着信が続いた。

見知らぬ番号からの電話だった。彼女は眠そうな目をこすりながら、通話ボタンを押した。

「もしもし、藤上宇一さんのお姉さんですか?彼が事故に遭いました。すぐに仁田病院まで来てください」