第004章 芝居はまだ終わらないのか

優奈は濡れ衣を着せられるのが大嫌いだった。彼女は自分がどうやって熱を出したのか、そして昨晩誰が彼の世話をして、彼女のように病気になることもなく快適に眠れるようにしたのかを彼に伝えたかった。

しかし、言っても光秀は信じないだろうと彼女は知っていた。

そのとき、彼女の電話が鳴った。

優奈は男の手を振り払い、呼吸を整えてから、冷静に電話に出た。「もしもし？」

相手は尋ねた。「もしもし、高橋優奈さんでしょうか？」

「はい、そうです」

「こちら、富山老人ホームでございます。近藤様の来月分のご利用料金につきまして、まだご入金が確認できておりません。お支払いの期限は今月10日となっておりますので、ご確認のほどよろしくお願いいたします」

「はい、承知しました。ご迷惑をおかけしませんので」優奈は丁寧に言ってから電話を切った。支払いの期限は10日。でも給料は15日だ。どうしよう？

彼女の姿は一瞬で落ち込んだように見え、ソファに崩れ落ち、先ほどの男との激しい口論をすっかり忘れていた。

光秀は彼女がまるで空気の抜けた風船のようになったのを見て、眉をひそめた。「芝居はまだ終わらないのか？」

優奈は彼に構う気力もなく、キッチンに向かって歩き出し、何か腹を満たすものを探そうとした。

まずは、自分の体をちゃんと整えなければ。仕事を始めて、ちゃんと給料を得て、そのお金で、老人ホームの費用を払わなければならない。

冷凍庫を開けると、中には市販の冷凍焼き餃子が入っていた。優奈はそれを取り出して、フライパンに並べ始めた。

10分後、焼き餃子を持ってダイニングに座り、食器を手に取って食べようとしたとき、光秀が突然彼女の横に立った。

彼女が彼を見上げる間もなく、男の詰問するような声が響いた。「誰が別荘の物に触れていいと言った？」

優奈は無視して、箸で餃子をつまんで口に運んだ。彼女はあまりにも空腹で、ただ食べたいだけで、あの男とくだらない話をする気は全くなかった。

しかし口に入れる前に、箸は男に叩き落とされた。

優奈は顔を上げて男を一瞥した。彼は無表情で彼女を見つめていた。

彼女は昨晩、光秀に遅くまで振り回され、さらに彼をお風呂に入れてベッドまで運んだ。

その後、自分は熱を出し、今に至るまで一口も食べていないので、どれほど空腹かは明らかだった。

しかし、この男は...彼女に一口の食事さえ許さないつもりなのか？！

彼女の目は赤くなったが、口論しても何の意味もないことを知っていたので、心の痛みを堪えて箸を拾い、二つ目の餃子をつまもうとした。

しかし今度は男が直接皿を持ち上げた！

女性が驚いて彼を見たとき、彼は平然と皿ごと餃子をダイニングテーブルの横にあるゴミ箱に捨てるのを見た。

優奈がまだ衝撃の中で呆然としているうちに、光秀の冷たい声が響いた。「林田おばさん、別荘のすべての物を見張っていろ。誰かがまた触れたら、あなたに責任を取らせる」

この言葉は、明らかに彼女を標的にしていた。

光秀はそう言うと、優奈から視線を外し、すぐに別荘を出て行った。

ドアが閉まった瞬間、優奈はついに泣き出した。

最初は小さなすすり泣きから始まり、やがて大声で泣き崩れた。

彼女は父親のために良い弁護士を雇い、彼が刑務所で少しでも楽に過ごせるようにするため、綾瀬陽向を探し出し、綾瀬光秀と結婚することに同意したのだ。

結婚後の生活が他の平凡な夫婦のように幸せで調和のとれたものにはならないだろうとは思っていたが、こんなに悲惨なものになるとは思ってもみなかった。

林田おばさんは優奈を見て、彼女に何か食べ物を与えたいと思ったが、光秀の怒りを買うのが怖くて、どうしたらいいのかわからなかった。

優奈はしばらく泣いた後、立ち上がって部屋に戻り、簡単に身支度を整えて別荘を出た。

……

優奈はレストランで詩音と待ち合わせていた。別荘でまともに食事ができない以上、外で食べるしかない。どんなに辛くても、ちゃんと生きなきゃいけない。

食器を置いたとき、ふと気づくと、詩音がじっとこちらを見ていた。

優奈は何か顔に付いているのかと思い、ナプキンで拭いたが、けれど、詩音の視線は一向に外れない。不思議に思った優奈が、少し眉をひそめて口を開く。「なんでそんなに私を見てるの？」