広間は広いが、宮本深の周りの空気は極めて冷え込み、皆を息苦しくさせた。
彼は黙っているままだ。
しかし、彼が怒っていることは、誰もが知っている。
彼はタバコを取り出し、一本を挟んで火をつけた。
白い煙を吐き出し、それが彼の顔を覆った。彼はその朦朧とした煙越しに林知恵を見つめ、その眼差しは読み取れないものだ。
「出ていけ」
続いて、宮本当主も不機嫌そうに手を振った。
すると山下穂子は林知恵を支え起こした。
林知恵は自分の手を引き離し、広間の中で真っ直ぐに立ち、力を込めて言い張った。「私がここにいるのは、色々と不都合なんですよね。ではすぐに引っ越します。当主様、長年の面倒を見ていただき、ありがとうございました」
彼女は去るにしても、きれいきっぱりと去りたかった。
彼女は前世のようにおどおどと、恐れおののくことはもうしない。
言い終えると、林知恵は背を向けて立ち去った。
彼女の背中に注がれる視線は、危険で冷酷だった。
……
広間を出ると、大量の避妊薬による胃腸の反応が襲ってきて、めまいと吐き気がした。
林知恵は数歩も歩けず、気を失ってしまった。
林知恵が目を覚ますと、山下穂子がベッドの傍らに座り、目を赤くしていた。
彼女が目覚めたのを見ると、すぐにビンタした。しかし特に力は入っていないため、くすぐるような感じだった。
「私を死ぬほど心配したのよ?あの薬は勝手に飲んでいいものじゃないでしょう?」
「ママ、それこそ無駄よ。私がそれを飲まなければ、一生も宮本家から出られないわ」林知恵は弱々しく反論した。
「あなたは…ついていない子ね!前から言っていたでしょう、早めにお金持ちの息子と知り合って、良い結婚ができれば、安定した生活が送れるって」山下穂子は諭した。
「母さんのように?」
あれのどこが安定した生活なの?
山下穂子は言いかけて止めた。
そのとき、ドアが開き、宮本石彦がお粥を持って入ってきた。
「知恵が目を覚ましたか、早く飲め、胃も楽になるだろう」
林知恵が「ありがとう」と言おうとしたとき、宮本石彦の耳が破れているのに気づいた。傷跡から見ると、何か鋭いもので殴られたようだった。
きっと宮本当主だ。
彼は前からこの一家を快く思っておらず、次男が愚かだと思い、連れ子のいる女性と結婚したことを非難していた。
林知恵は申し訳なさそうに謝った。「おじさん、ご迷惑をおかけしました。すぐに出ていきます」
「そんなこと言わないで!」山下穂子は不機嫌そうに言った。
宮本石彦は彼女の肩を軽く叩いた。「医者が言うには、知恵が目覚めたら、薬を飲まなければならないそうだ。温かい水を持ってきてくれないか」
山下穂子はすぐに立ち上がって出ていった。
宮本石彦はベッドの傍らに座り、軽くため息をついた。「知恵、本当に出ていくつもりなのか?」
「おじさん、私がここにいれば、あなたと母さんに迷惑をかけるだけです。私はもう大人ですし、自分のことは自分でちゃんと面倒を見られます」
「私の力不足が原因なんだ」宮本石彦はカードを取り出し、林知恵の枕の下に押し込んだ。「断らないでくれ。君ほど若い女性が外で暮らすには、お金がかかるところがたくさんある。暗証番号は君の誕生日だ。外では気をつけるんだ。何かあったら私とお母さんに電話してくれ」
林知恵は感謝の気持ちを込めて言った。「ありがとう、おじさん」
宮本石彦は林知恵を見つめ、唐突に言った。「そう言えば今日の深、実に妙だったな、あまりにも普段と違っていた」
林知恵は不思議そうに尋ねた。「どうしたんですか?」
「お母さんが君が倒れたと叫んだら、彼が飛び出してきて、君を抱えて行ってしまった。当主が使い人を呼んで、君をここに送り返すよう命じなければ、今頃はまだ彼の部屋に横たわっていただろう」
「何ですって?」林知恵は驚いて布団をきつく握りしめた。
「心配するな、深は宮本家で君が死んだら噂になると言っていた」
「はい」
それこそが宮本深らしい、と林知恵は苦笑した。
昨夜のすべては夢のようだった。
林知恵は薬を飲んで少し休んだ後、起き上がって荷物を片付けた。
出発したとき、彼女は敢えて山下穂子を避けた。さもなければ、山下穂子はきっと泣き叫んでいただろう。
宮本邸を出るとき、道中の使用人たちは皆頭を下げ、彼女と関わりたくないかのようだった。
彼女は玄関の下に立ち、徐々に暗くなる空を見つめた。
この一日も、ようやく終わろうとしていた。
京渡市の秋の気配は早く訪れ、夕方の風はひゅうひゅうと吹いていた。
林知恵はバッグの紐を押さえ、足早に立ち去った。
宮本邸は独立した庭園式の邸宅で、京渡市の最も良い地区にあったが、外界からの干渉を避けるため、宮本家は早くから邸宅周辺の土地も一緒に買い取った。
周囲に私設公園も作られており、時々イベントを開催して一般公開することもあった。
しかし地下鉄もバスもなく、タクシーさえもめったに見かけなかった。
林知恵がどんなに急いでも、最寄りの駅まで20分は歩かなければならなかった。
彼女は風に向かって街灯の下を歩き、数分歩いたところで、後ろから車のクラクションが聞こえた。
彼女は反射的に道の端に寄った。
しかし、車は彼女の横に停まった。
「林さん、どうぞお乗りください」
窓が下がり、一応見覚えのある顔が覗いた。
あれは宮本深の助手、田中慎治だった。
林知恵は少し驚き、横目で後部座席を見ると、赤翡翠の指輪をはめた手が膝の上で軽く叩いており、いらだちを感じさせた。
宮本深だ。
林知恵は彼とこれ以上関わりたくないので、頭を振って断った。「結構です。おじさま、どうぞお先に」
彼女は鞄を引っ張り、前に進み続けた。
後ろで、田中慎治が素早く車から降り、林知恵の行く手を阻んだ。
彼は礼儀正しく適切な笑顔を浮かべ、穏やかに薦めた。「林さん、どうぞお乗りください。これはあなたのためでもあります。三男様が言うには、あなたがこのように荷物を持って出ていくところを誰かに見られたら、よくない噂をされますと。どうしても断るのなら、私も自分なりのやり方で、乗せるしかありません」
林知恵は鞄をきつく握りしめ、後部座席の窓を見た。真っ暗で何も見えなかった。
しかし彼女は知っている、宮本深が彼女を見つめていることを。
宮本深の手段の冷酷さは、京渡市で知られており、前世で彼女もそれを目の当たりにしていた。
強硬に反対すれば、彼がどうするかは想像に難くない。
林知恵の体からは一瞬で熱が抜け、全身が冷え冷えとした。
彼女はせっかくやり直せたんだから、宮本深の怒りに再び挑戦したくはない。
林知恵はうなずき、助手席に向かった。
しかし、田中慎治に彼女を後部座席に押し込まれた。
座ったばかりで、彼女は車内のアルコールの匂いを嗅いだ。
不審に思って見ると、宮本深の高くそびえる体が椅子の背もたれに寄りかかり、目を半ば閉じたが、薄暗い中で、彼の顔の大半は影に隠れていた。
危険で冷酷だ。
宮本深はまぶたを少し持ち上げ、淡々と聞いた。「もう行くのか?」
彼の声には感情がなかったが、林知恵は何かがその喉に詰まったような圧迫感を感じた。
しばらくして、彼女はようやくこの感覚に気づいた。
それは前世で彼が彼女をお仕置きしたとき、「家出したい?そう簡単にはいかないよ」という口調にそっくりだった。
林知恵は憎しみを押し殺し、少し位置を動かし、ちょうど答えようとしたとき、携帯電話が鳴った。
山下穂子からの電話だった。
林知恵は出たくなかった。山下穂子がまた彼女がチャンスを逃したことを嘆くのではないかと、嫌がったからだ。
しかし宮本深はすでにこっちに視線を向け、眉をひそめていた。
だから林知恵は電話に出るしかなかった。
「林知恵!なんてことをしてくれたのよ?私が何か悪いことでもしたの?どうして家出なんてするの?」
山下穂子の声はわずかに詰まり、一言一言に途方もない無力感が滲んでいた。
彼女も自分に娘を守る力がないことを知っていた。
「母さん、私は自分の面倒をちゃんと見られるから」
「あなたはね…とにかく気をつけて」山下穂子はため息をつき、無力に妥協した。「知恵、それなら…私が石彦に頼んで、似合う相手を探してあげよう。男性に頼れる方が一人で外にいるよりいいわ。きっとあなたに合った人を見つけてくれるわ」
山下穂子はまた説教を始めた。
林知恵は横目で宮本深を見たが、彼の表情は読み取れなかった。しかし彼女はすでに動揺し、慌てて「また今度」と言った。
今回の山下穂子は珍しく強気だ。「ごまかさないで、あなたのためを思ってるのよ。これで決まりだね、数日後にお見合いに行くのよ…」
「母さん!もう切るわ」
林知恵はそう言ってすぐに電話を切った。
前世でも、山下穂子はお見合いを手配したことがあったが、後に彼女と宮本深の件があったため、立ち消えになった。
宮本深と言えば、彼は今の話を聞いていなかっただろうか?
聞いていても構わない、彼は気にしないだろう。
しかし車内は突然空気が消えたかのように、針が落ちる音も聞こえるほどになった。
街灯は木の枝に遮られ、光が斑に車窓から入り込み、宮本深の顔の輪郭を滑り落ちた。
林知恵は針のむしろに座っているような気がして、思わず手を握りしめた。
続いて、軽い嘲笑が聞こえた。
「お見合い?」
「林知恵、昨夜のお前の言葉に、真実なんて一つでもあった?」