第11章 衣冠禽獣

林知恵は視線を感じ、顔を向けた。

宮本深だった。

厳かな黒いスーツ、長い指が額に触れ、血のように赤い指輪が陽光の下で血に飢えた冷たさを放っていた。

彼の隣には折木和秋が寄り添っていた。

折木和秋は何かを話しているようで、二人はとても近くにいて、宮本深の表情も穏やかに柔らかかった。

林知恵は視線を戻し、平静を装って手を下ろした。

「ありがとう」

「どういたしまして」男は自然に視線を向けた。「あれは三男様ですね?本当に婚約者を大事にしているんですね、自ら送り迎えするなんて」

そうね。

誰もが宮本深の折木和秋への偏愛を見て取れた。

前世の彼女だけが馬鹿のように、彼を待ち、彼を愛していた。

林知恵がうなずこうとしたとき、山下穂子に引っ張られた。

「せっかく会ったんだから、叔父さんに挨拶してきなさい」

「行かない」林知恵は手を振り払い、立ち去ろうとした。

「あなたったら…」

山下穂子の言葉が終わらないうちに、折木和秋の突然の声に遮られた。

「奥様、知恵さん、なんて偶然。この方は…」

折木和秋は宮本深の腕に手を回し、林知恵の隣にいる男性を見つめた。

山下穂子は元々折木和秋を偽善者だと思っていたが、宮本家での騒動以来、彼女が良からぬ心を持っていると確信していた。

彼女は男性の側に歩み寄り、少し自慢げに言った。「草刈家の若旦那、草刈誠さんよ。素晴らしい人物で、私たちはとても満足しているわ」

「私たち」という言葉には深い意味が込められていた。

林知恵が止めようとしても間に合わず、瞬時に対面の視線が沈んだのを感じた。

草刈誠は紳士的に前に出た。「三男様」

宮本深は彼を見ず、何気なく林知恵に視線を落とし、唇の端に軽蔑の笑みを浮かべた。「私たち?」

最後に意味深に草刈誠を見た。「確かに素晴らしい人物だ」

林知恵は背筋が凍り、手のひらに冷や汗をかいた。

さらりとした言葉なのに、彼女には溺れるような窒息感を覚えた。

折木和秋は草刈誠を一瞥し、目の奥に軽蔑の色が浮かんだ。

こんな男は宮本深の前では何の価値もない。

林知恵とならお似合いだろうけど。

しかし折木和秋はそれを表に出さず、柔らかな笑みを浮かべた。「草刈坊ちゃんはとても素敵な方ね。知恵さん、しっかり掴まえなきゃ。大人しく生きるのが一番よ、変なことを考えないで」