林知恵は客席を一瞥し、視線が特別席の男に触れた。
隣の主催者側の責任者が頭を下げ、何かを慎重に話していた。
しかし男は物憂げな表情で、彼の話に興味を示さず、茶碗を持ち、湯気越しに黒々とした目で林知恵を見つめていた。
強い圧迫感に彼女は身震いし、思わず素早く視線をそらした。
客席では、ほとんどの人が林知恵に期待のない目を向けていた。
結局、折木和秋のように何百万もする原石でコンテストに参加する人はごく少数で、しかも彼女のデザインは完成度が高く斬新だった。
責任者もそう思っていた。
「三男様、ご安心ください。先ほど雪村真理先生に確認しましたが、折木さんにとても満足されていて、今回の一位は彼女以外にありえないとのことです」
宮本深はお茶を一口すすり、淡々と言った。「そうとは限らないな?」