林知恵のバッグには宮本深が残した腕時計がまだ入っていた。
彼が何故そんなことをしたのか、彼女には理解できなかった。
考えあぐねていると、折木和秋が手首を上げて皆に見せびらかした。
雪のように白い手首には幅広いダイヤモンドがちりばめられた腕時計が巻かれていた。バンドは一定の間隔でルビーが埋め込まれ、文字盤までもがルビーとダイヤモンドで埋め尽くされていた。
値段は安くない。
同僚が興味深そうに尋ねた。「三男様は本当に心を込めていますね、これはきっと安くないでしょう?」
折木和秋は手を引っ込め、目を上げて林知恵の手首を見渡し、ガラスのような唇に笑みを浮かべた。
「私が気に入れば、三男様は価格など気にしないわ。実は以前、三男様は彼と同じ女性用の時計をくれると言ったけど、私はちらっと見て気に入らなかったの。そしたら彼はオークションハウスでこのアンティークの時計を落札してくれたのよ」
言外の意味は、宮本深が彼女を狂おしいほど愛しているということだった。
林知恵はバッグの紐をねじりながら、指先に冷たさと硬さを感じていた。
結局また折木和秋の選り好みの残りだったのだ。
このことで林知恵は苦しい記憶に引き戻された。
前世では、一晩の狂気の後、宮本深はいつも宝石を残していき、それは折木和秋が要らないと言ったものだと告げていた。
何度も何度も彼女を辱めていた。
林知恵は我に返り、心の中で繰り返し自分に言い聞かせた。すべては二度と起こらない。
折木和秋は彼女の反応に満足していなかった。彼女が座る前に、素早く彼女の前まで歩み寄った。
「知恵、アドバイスをもらえないかしら。三男様にカスタムメイドの時計をプレゼントしたいんだけど、どんなスタイルが彼に合うと思う?そうだ、宝石で名前を埋め込むのはどうかしら?」
林知恵の胸がドキリと跳ねたが、すぐに落ち着きを取り戻した。
「あなたは彼の婚約者なのに知らないのに、私のような部外者が何を知っているというの?」
折木和秋はうなずき、表情を変えずに笑った。「そうね、自分で考えてみるわ」
しばらくして、林知恵は心の苦しみに耐えられなくなり、コーヒーを入れるふりをして給湯室に逃げ込んだ。
彼女はテーブルに手をついて深呼吸した。