第337章 井上希美が訪ねてくる

「知恵、どうしたの?」桑田剛が声をかけた。

林知恵は我に返り、スマホを置いた。「蘭子が独身パーティーの日程を確認してきたの。仮装舞踏会の衣装を用意してくれたって」

「仮装舞踏会?彼女は本当に葉山姫奈の提案を聞き入れたんだな」桑田剛は小声で言った。

「葉山姫奈?仮装舞踏会は彼女の提案だったの?」林知恵は好奇心を抱いて尋ねた。

「ああ、昨日蘭子から聞いたんだが、彼女は海外である有名な仮装舞踏会に参加する予定だったけど、怪我をしたせいで行けなかったんだ。だから葉山姫奈が結婚前に彼女のその願いを叶えてあげたいと思ったらしい」

怪我の話を聞いて、林知恵は無意識に自分の手を見つめた。

桑田剛は彼女の視線に気づくと、すぐに言った。「行きたくないなら、蘭子に断る手伝いをするよ」

「大丈夫よ、約束したんだから行くわ」

林知恵は他人の晴れの日に不快な思いをさせたくなかった。

特に仮装舞踏会は葉山姫奈とも関係があるし、葉山姫奈は他のことはともかく、でたらめを言うのが得意だった。

桑田剛は彼女が同意したのを見て、それ以上何も言わなかった。

しばらくして、彼は電話を受けた。電話の向こうは明らかに女性の声だったが、彼は山田照夫から何かの用事を処理するよう頼まれたと言った。

林知恵はそれを指摘せず、彼を見送った。

暇を持て余した彼女は少し片付けをし、ゴミを捨てに下りたとき、向かいの車がクラクションを2回鳴らした。

彼女が顔を上げると、車の窓から女性の顔が見えた。

井上希美だった。

彼女はゆっくりと車から降り、車のドアに寄りかかってタバコに火をつけた。「林知恵、私、あなたを尊敬し始めたわ。私が桑田社長を呼び出したって知っていながら、少しも怒らないなんて」

「彼を信じているから」林知恵は率直に答えた。

「ふん」井上希美は冷たく鼻を鳴らした。「彼を信じているの?それとも別の理由?」

「井上さん、他に用がなければ、私はこれで」

林知恵が立ち去ろうとしたが、井上希美が追いかけてくるとは思わなかった。

井上希美は彼女を遮った。「マンションの入口のカフェはいいわよ。コーヒーをおごってくれない?」

「井上さん、あなたのその身なりは車一台買えるほどよ。私にコーヒーをおごれって言うの?」

林知恵は彼女の厚かましさに呆れた。