男の顔が間近に迫り、林知恵は息を止め、思わずマフラーを引き締めた。
彼に気づかれないように、彼女は視線をそらし、マフラーを彼の首に巻き、そして彼の襟元を指さした。
「中に入れて、服の濡れたところを隠して」
宮本深は目を伏せ、目には少し落胆の色が見えたが、図々しくせず、自分で身なりを整えた。
しばらくして、二人は2号棟に入り、高校3年3組を見つけた。
窓際に立つと、教室内が一目で見渡せた。
五、六人の女子生徒が座り、二人三人と話をしていた。
ただ一人の女子生徒だけが真剣にテスト問題を解いていて、窓の外に人がいることに気づくと顔を上げて一瞥した。
林知恵と短く二秒ほど目が合うと、彼女は素早く俯き、手に持ったペンまで軽く震えていた。
林知恵が他の生徒たちを見ている隙に、その女子生徒はティッシュを二枚取り、トイレに行くふりをして立ち上がった。