病院。
草刈栞が目を覚ますと、白川若菜がベッドの傍らに座っているのが見えた。
彼女は驚いて後ずさりした。
「あなた、何をするつもり?」
白川若菜の赤みを帯びた唇が微かに上がった。普段なら優しく見えるだろうが。
今の草刈栞には、白川若菜を全く理解できていなかったと感じた。
白川若菜は買ったばかりのフルーツバスケットから瑞々しいリンゴを選び、新しいナイフを取り出した。
彼女はゆっくりと皮を剥きながら、落ち着いた声で言った。「私の部下が彼らを外で止めているから、焦らなくていいわ。果物を剥いてあげるから、休んでいて」
草刈栞は信じられない思いで白川若菜を見つめた。
一瞬、先ほど起きたことはただの悪夢だったのではないかとさえ思った。
白川若菜は頭を下げてリンゴの皮を剥いていた。白く柔らかな指がフルーツナイフを握る様子には言い表せない何かがあった。