林知恵と宮本深は少し離れたところに立って様子を見ていた。
草刈栞は最終的に救急車で運ばれたが、普段から彼女と仲の良かった同僚たちは誰も付き添う勇気がなかった。
結局、雪村真理が白川若菜に様子を見に行くよう言い渡した。
同僚たちはようやく安堵のため息をついた。
しかし林知恵の表情はわずかに引き締まった。雪村真理が白川若菜を行かせたのは草刈栞を心配してのことではない。
草刈栞の口を封じるためだった。
その様子を見て、林知恵はため息をついた。
「わかったか?どうするつもりだ?」宮本深が尋ねた。
林知恵は唇を引き締めて言った。「草刈栞はもうダメみたいね。でも...彼女たちは大丈夫なはず」
「ああ」
宮本深は彼女を見下ろし、次の言葉を待っているようだった。
林知恵はしばらく躊躇した後、ゆっくりと言った。「もう少し考えさせて」
「いいよ」
宮本深は、かつての良き師であり友人に裏切られたという事実を彼女に無理強いしなかった。
彼が言ったように、名利の世界では何もかもが変わるものだ。
しかし林知恵は理由が知りたかった。
雪村真理がホールから出てきて、入り口で粉々になった作品を見つめ、しばらく呆然としていた。
そして数歩先にいる林知恵と宮本深に気づいた。
彼女は一瞬たじろぎ、顔色は身に着けている白いカシミアのセットアップと同じく青ざめていた。
林知恵は宮本深に言った。「私は先に中に入るわ。記念ジュエリーはしっかり見ておくから」
宮本深は雪村真理の存在を気にせず、彼女の手を握った。
「じゃあ、行くよ」
彼が去るのを見送った後、林知恵は雪村真理の前に歩み寄った。
雪村真理は深く息を吸い込み、振り返って言った。「オフィスに来なさい」
林知恵は雪村真理について豪華なオフィスに入った。
雪村真理はしばらくデスクに手をついて立っていた。
その後、横のワインセラーを開け、高価な洋酒を取り出して一杯注ぎ、一気に飲み干した。
林知恵はそこで気づいた。以前このキャビネットにはファッション雑誌がたくさん置かれていたのに。
今はワインセラーに変わっていた。ガラス扉越しに見たときは装飾品だと思っていたが。
今になって気づいたのは、中身は本物のお酒ばかりで、しかもほとんどが飲みかけだった。