第531章 サークルから追い出す

林知恵は話しながら、すでに宮本深のネクタイを引っ張っていた。

しかし、視線は周囲を窺っていた。

彼女を見つめている人が空気を読んでくれることを願った。

宮本深は軽く彼女を一瞥し、思わず口角が上がった。

片手で車のドアを支え、少し身を屈めた。

「整えるのはいいけど、変なところを触らないで」

その言葉を聞いて、林知恵はネクタイを引っ張っていた自分の手が、いつの間にか彼の襟元に触れていることに気づいた。

彼女はすぐに頭を下げ、彼のネクタイを整えるふりをした。

自分への視線が消えるまで待ち、すぐに手を放した。

「じゃあ、行くね」

ちょうど身を翻そうとしたとき、宮本深は車のドアの陰に隠れて片手で彼女を抱き寄せた。

「利用したら終わり?」

林知恵は彼を押しやった。「ここは公共の場だよ、やめて」

宮本深は目を細めた。「知恵、君の襟元に何かついてるみたいだ。車の中で直した方がいい」

「何…」

林知恵が言葉を終える前に、男に車の中へ押し込まれた。

彼女が再び車のドアを開けたとき、顔全体が赤らんでいた。特に唇は異常なほど赤く潤んでいた。

車内で、宮本深はスーツを整え、ついでに唇の口紅を拭った。

「この前の口紅に変えて。これは美味しくない」

美味しい?

林知恵の顔はさらに赤くなった。彼女はドアを握りしめた。

「前回のは誰が無駄にしたの?」

宮本深の黒く沈んだ瞳がわずかに上がり、その目の奥の波紋はまるで魔力のように、人を釘付けにした。

「知恵、使い切ったのは無駄じゃない」

どう使ったかは二人とも分かっていた。

林知恵は後ずさりし、これ以上彼と話すのをやめた。さもなければ今日は仕事に行けなくなる。

彼女は力強くドアを閉めた。「行くね」

宮本深は窓を下げ、注意を促した。「気をつけて。何かあったら人を呼んで、彼らは近くにいるから」

「うん」

宮本深は去っていった。

林知恵は深呼吸し、振り返ってスタジオへ向かった。

途中で、また誰かに見られているような感覚がよみがえった。

彼女はすぐに振り返ったが、通りは車や人で賑わっており、怪しい人物は見当たらなかった。

緊張していた背筋がようやく緩んだ。

これがすべて幻覚であることを願った。

しかし、知らぬ間に二つの目が彼女を見つめていた。

……

林知恵はオフィスに入った。