壁の向こうにイケメンがいる(3)

 「いいえ」執事は返事した。

 燿子は何も言わず、静かに身を翻して立ち去った。

 ……

 もう午前1時だ。おそらく今夜も、涼は帰ってこないだろう。

 あの日、彼が執事に彼女の避妊薬服用を監視するよう命じて家を出てから、今日まで数えると、もう一ヶ月も帰ってきていない。

 あの日、彼が出かける時、執事を通して彼女に一言伝えた。用事があろうとなかろうと彼を煩わせるなと。それ以来、彼女は本当に彼を煩わせなかった。

 だからこの一ヶ月の間、彼と彼女は顔を合わせないだけでなく、電話一本かけることもなかった。

 燿子は遠くにある針が1時を指す西洋風の置き時計をじっと見つめ、しばらくぼんやりとした後、ようやく視線をテレビの画面に戻した。そこには彼女の大好きな俳優が出演する映画が流れていたが、もう見続ける気分ではなくなり、思い切ってテレビを消し、立ち上がって二階へ戻った。

 おそらく先ほど階下で時計を見た時に涼のことを考えたせいだろう、燿子はベッドに横になっても、すぐには眠れなかった。目を閉じて長い間あれこれと考えをめぐらせ、やっと眠気が訪れ、かろうじて眠りに落ちかけたところで、ベッドサイドテーブルの固定電話が鳴り出した。

 発信者表示には有栖川家の旧邸の番号が表示されていた。燿子が電話に出ると、有栖川家で二十年以上働いている家政婦の中村おばさんの声が聞こえてきた。「奥様、こんな遅くに電話して申し訳ありません。先ほど有栖川様からお電話があり、明日の早朝の便で東京に戻られるそうで、あなたと若旦那様に夕食を旧邸でご一緒にとのことです……」

 中村おばさんは有栖川お爺さんの指示に従っており、有栖川家で唯一、涼の意向に反して彼女を「奥様」と呼ぶ勇気のある人だった。

 「それから若旦那様にもお伝えするのをお忘れなく……」

 涼は言っていた、用事があろうとなかろうと彼を煩わせるなと…燿子は反射的に中村おばさんに涼に電話をかけてもらおうと口を開きかけたが、言葉が口元まで来たところで、彼女が彼の家に住み始めた日に彼から受けた警告を思い出した。

 彼は言った、祖父は彼にとってこの世で唯一の肉親であり、もし彼女が何か卑劣な手段を使って祖父を騙し、彼と彼女を一緒にさせようとしたのでなければ、彼女を家に住まわせるどころか、彼女を見ることさえ面倒だと思っていただろうと。

 彼はさらに言った、祖父に彼と彼女の関係が良くないことを知られないようにしろ、もし祖父がそのことで心を痛めるようなことがあれば、絶対に彼女を許さないと。

 彼女は有涼の家に住んでいるのに、中村おばさんに彼に電話をかけてもらうなんて、彼女と涼の関係が最悪だということを明らかにするようなものだ。そして中村おばさんは祖父に長年仕えてきた人で…

 燿子は少し葛藤した後、最終的に言おうとしていた言葉を飲み込み、こう言った:「中村おばさん、わかりました。涼に伝えておきます」

 電話を切ると、燿子はベッドの頭に寄りかかり、携帯電話を手に取って涼の電話番号を探し、しばらく迷った後、ようやくかけた。

 携帯の受話器から発信音が聞こえてくるにつれ、燿子は緊張のあまり息をするのも忘れていた。

 一回、二回、三回……四回目の呼び出し音が鳴る前に、電話は相手側によって容赦なく切られた。

 涼は彼女の電話を拒否した……

 燿子は唇の端を引き締め、涼への電話をかけ続けることはせず、代わりにメッセージを作成して彼に送信した。

 画面には「メッセージが配信されました」という通知がなかなか表示されず、燿子は仕方なく涼にもう一度電話をかけた。今回、受話器から聞こえてきたのは電話がつながる音ではなく、話し中を示す忙しい音だった。