第75章 深い愛と浅い縁(5)

「旧邸から出たばかりじゃないの?どうしてまた戻るの?」

大和くんは車のエンジンをかけながら、驚いてバックミラー越しに後部座席の有栖川涼を見た。

男性の端正な顔には、感情が見えないほど冷淡な表情が浮かんでおり、今何を考えているのか全く読み取れなかった。

車が有栖川家の旧邸の庭に入ると、大和くんは和泉沙羅の車を見かけた。彼は「なんて偶然、和泉さんもいらっしゃるんですね」と言いかけたが、何かを悟ったように言葉を飲み込んだ。

有栖川さんは和泉さんの車を見て車を止めさせ、彼女の車が出て行くまで待ってから、旧邸に戻るよう指示したのだ。きっと有栖川さんは和泉さんが旧邸にいることを知って、わざわざ来たのだろう。でも...有栖川さんはずっと和泉さんを嫌っていたはずでは?

大和くんは考えれば考えるほど混乱し、車を停めた後、バックミラー越しにこっそりと有栖川涼を観察した。