第73章 深い愛と浅い縁(3)

弁当箱を手に持ち、有栖川家の旧邸を出た常盤燿子は、有栖川様に別れを告げる時、これ以上ないほど明るく輝く笑顔を浮かべていた。そして車のエンジンをかけ、慌てることなく有栖川グループの方向へと車を走らせた。

二つほど信号を通過したところで、もう有栖川様の姿が見えないことを知りながらも、常盤燿子は少し頭を傾け、バックミラーを通して後ろを振り返った。有栖川家の旧邸からかなり離れたことを確認すると、前方の交差点で曲がり、有栖川涼の会社とは反対方向を選んだ。

有栖川家の旧邸にいる間、彼女は最初から有栖川涼の会社に弁当を届けるつもりなど全くなかった。彼女の言葉も行動も、すべては有栖川様に見せるための演技に過ぎなかった。

彼女が有栖川家の旧邸で言った言葉や見せた反応は、すべて有栖川様に見せるための演技に過ぎなかった。