常盤燿子の体は、本能的に硬直した。少しの間を置いて、彼女はようやく唇を動かし、彼に挨拶をしようとしたが、すぐに思い直した。彼は彼女との関係をきれいに切り離したがっているのだから、彼女の挨拶など望んでいないだろう。そこで彼女は少し目を伏せ、瞳の奥の暗さを隠し、挨拶の考えを打ち消した。
常盤燿子は黙ったまま入り口に立ち、部屋に入ろうとはしなかった。
有栖川涼もずっと話す様子を見せなかった。
部屋全体が静まり返っていた。
次第に、常盤燿子は耐えられなくなり、緊張で手のひらに汗をかいていた。
彼女は密かに歯を食いしばり、長い間考えた末、ようやく言い訳を思いついて目を上げ、有栖川涼に話しかけようとした瞬間、彼女と同じくらい長い間黙っていた有栖川涼が、彼女に手を振った。「ちょっとこっちに来て」