第249章 後宮で寵愛を争う妃（9）

有栖川涼は彼女に噛まれた血まみれの傷を一瞥もせず、振り向いて少し離れたところに立っている途方に暮れた執事に、驚くほど穏やかな口調で言った。「お嬢様をお家にお連れしなさい！」

執事はその言葉を聞くと、すぐに駆け寄ってきた。「お嬢様、もう遅い時間です。先に帰りましょう。」

常盤燿子は動かず、何も言わなかった。

執事はどうすればいいのか分からず、振り返って有栖川涼を見た。

有栖川涼は常盤燿子の横顔をじっと見つめ、再び口を開いた。今度の口調は先ほどよりも少し強くなっていた。「帰るんだ！」

常盤燿子はまだ無関心な様子のままだった。

陸田透真は有栖川涼と常盤燿子がまた揉め事を起こすのを恐れ、素早く歩み寄り、まず常盤燿子の耳元で小声で「僕が探してあげるから、先に帰って」と言った。そう言いながら、常盤燿子を執事の方へ押しやり、執事に目配せをした。執事はすぐに陸田透真の意図を理解し、常盤燿子の腕を引いて遊園地の出口へ向かった。