第346章 有栖川涼、私は常盤燿子(6)

菅野千恵は受け取ると、助手に一言も言わずに、ハイヒールで歩き、ドアを開け、非常口から出て、エレベーターに乗って上階の美容院に戻った。

SVIPメンバーだったので、菅野千恵は慣れた様子で美容院の休憩室に入った。彼女は適当にパソコンを選び、電源を入れ、USBを挿し、動画をスマホに取り込み、イヤホンをつけて視聴し始めた。

動画は短くなく、7、8分ほどの長さだった。菅野千恵は半分ほど見たところで、目が興奮で輝き始め、最後まで見ると興奮のあまり席から勢いよく立ち上がった。

少し離れたところにいたスタッフが、思わず近づいてきて、敬意を込めて尋ねた。「菅野さん、何かお手伝いできることはありますか?」

「ないわ」菅野千恵はイヤホンを外し、スタッフに明るい笑顔を返しながら、荷物をまとめつつ、兄に電話をかけた。