常盤燿子は上杉琴乃が帰ってきて、またも鍵を忘れてノックしているのだと思い、シルクのキャミソールパジャマ一枚だけを着て、素足のまま走って出ていった。
ドアベルが再び連続して鳴らされ、彼女は上杉琴乃が待ちくたびれていると心配し、急いでドアへ向かった。リビングの明かりをつける余裕もなく、ドアスコープを覗く時間さえなく、ドアを開けた。
彼女は外を見ずに、まず口を開いた。「琴乃、また鍵を持って…」
後の「ないの?」という言葉は出てこなかった。彼女の口から声が消えた。
確かに上杉琴乃が帰ってきたのだが、彼女は泥酔して意識がなく、ぐったりと陸田透真の背中に乗せられ、まったく意識がなかった。
しかし、彼女を呆然とさせたのは陸田透真ではなく、その後ろに立っている有栖川涼だった。
黒いコート、長ズボンに革靴。