第519章 帰期未定の人を待つ(9)

「なんてことだ!」続いて有栖川様が激怒して怒鳴る声が聞こえ、大和くんはびくっとして、急いでドアを閉めた。

奥のオフィスで何が話されているのか、常盤燿子にははっきりとは聞こえなかったが、誰かが口論しているのが微かに聞こえ、その中に泣き声も混じっていた。和泉沙羅の声で、「おじいさま」と「涼」と呼んでいた。

秘書室の人たちは、おそらく有栖川涼のオフィスの物音を聞いて、怖くて息をするのも忘れていた。

大和くんは、他の人が常盤燿子の服の汚れを見て噂話にならないよう気を遣い、他の人の視線から彼女を守りながら、急いでエレベーターへと案内した。

エレベーターのドアが開いた時、オフィスから「バン」という音が聞こえた。椅子が投げられて壁にぶつかったような音だった。

常盤燿子はその音に心臓が震え、エレベーターに乗り込む際、思わず振り返って有栖川涼のオフィスを見た。心の中で心配が湧き上がった。誰が手を出したのだろう?有栖川様が有栖川涼に対してだろうか?