096章 スピードと情熱(二)

会所を出る頃には、すでに夕暮れが近づいており、夕陽が一面に金色の光を注ぎ、瑞穂市全体を陶酔するような柔らかさで包み込んでいた。

星野夏子は心もずいぶん軽くなり、胸の奥に押し込められていた重苦しさもようやく薄れてきた。車に近づいた時、夏子は自分が運転すると言い、藤崎輝も彼女に任せ、黙って助手席に座った。

夫婦二人は前回夏子が輝を連れて行ったレストランで夕食を取り、その後ゆっくりと車を走らせながら聖蘭別荘区へと戻る道を進んだ。

夏子はやはり九曲がり周辺のルートを選んだ。そこを通れば聖蘭別荘区に近いからだ。

車は茫洋とした夕闇の中を疾走し、前方の薄暗い光を追いかけていた。夜の九曲がりは静かで、時折すれ違う一台二台の車があるだけで、道には人影一つ見えなかった。

夏子は片手で頬杖をつき、のんびりとハンドルを握りながら安定した速度で走っていた。しかし、九曲がりの入口付近に差し掛かり、まさにトンネルに入ろうとした時、突然前方から轟音とともにクラクションが鳴り響き、彼女が反応する間もなく、まばゆい強烈な光が照らしつけてきた。夏子は反射的に手を上げて眩しい光を遮った。