第116章 実はもっと卑怯になれる（一）

このような急変に、松尾涼介たちも少し驚いたが、藤崎取締役が突然怒り出したのは彼らの企画監督である星野夏子のせいだということを忘れてはいなかった。

彼らが我に返った時、皆は無意識のうちに視線を星野夏子に向けたが、夏子さんはとても落ち着いた様子でお酒を飲み、時々うつむいて食事をし、まるで自分には関係ないという態度だった。

「星野監督、藤崎取締役は……」

松尾涼介が何か聞こうとしたとき、前方の木村大輔はすでに星野夏子の方へ歩み寄り、彼女の側に立ち止まり、声を低くして囁いた。「星野監督、若様が外であなたを待っています」

星野夏子は手の動きを止め、先ほど男性が彼女に小声で言った言葉が頭をよぎり、眉をひそめながら答えた。「パーティーはまだ終わっていないのでは？まだ表彰式もないのでは？」

大きな賞をもらえるとも言っていたのに。

「若様は広報部を直接あなたに任せると言っています」

木村大輔は小声で答えた。

星野夏子はためらいながら、顔を上げてステージから青ざめた顔で降りてくる星野心と、周囲の人々から投げかけられる様々な憶測と奇妙な視線を見て、思わず指先で軽く額を押さえた……

しばらくして、ようやく息を吸い込み、突然立ち上がり、椅子に掛けていたコートを手に取り、ホールの入り口へと歩いていった。

しかし、星野夏子の姿が入り口で消えると、人々はまた驚いた——

藤崎取締役が出て行ったと思ったら、すぐに星野監督も後に続いて出て行くなんて、明らかに何かありそうだ！

もっとも、これは非常に理解しやすいことだった。結局のところ、藤崎取締役のような若くして風雲児となった人物の側に、星野監督のような美しい女性がいれば、人々が想像を膨らませないわけがない。

それに、先ほど二人が並んで立っていた姿は、本当に似合っていた！

そこで下の人たちは、楽しげに議論し始めた。上司についてのこのような小さなゴシップを話すことで、なぜか気分が晴れるようだった。

すぐに、皆はさっきまで注目の的だった女性セレブたちのことをすっかり忘れ、彼らにとっては会社のこのちょっとしたゴシップを議論する方がより現実的だと思われた。

……

一方、星野夏子は帝光グランドホテルの入り口を出たところで、目の前の広場の端で電話をしている藤崎輝を見かけた。彼は彼女が乗ってきたカイエンの横に立っていた。