第174章 なぜ彼と結婚しないのか?(1)

回旋する美しい歌声の中、清川の幹部たちが来賓と乾杯を始め、藤崎輝と星野夏子も立ち上がって一緒に挨拶回りをした。

まるで天が結び合わせた完璧なカップルのような二人は、宴会場の注目の的となっていた。

「夏子、今夜は本当に綺麗だね!私も驚いたわ!」

須藤菜々のテーブルに来たとき、菜々は思わず立ち上がって夏子を抱きしめた。夏子は微笑みながら応じるしかなかった。

「ありがとう、菜々」

夏子は少しかすれた声で、彼女の耳元で静かに言った。

菜々は彼女の背中を軽くたたいてから手を離し、隣にいる藤崎輝を見て笑いながら言った。「ありがとう、藤崎若旦那!」

藤崎輝は当然、菜々の言葉の意味を理解していた。彼は意味深な視線で隣の夏子を一瞥してから、菜々に向かってグラスを少し持ち上げ、返事の代わりとした。

「でも、気をつけて。トラブルメーカーが来るわよ」

菜々の言葉が終わるか終わらないかのうちに、前方から騒がしい声が聞こえ、数人の華やかな姿が視界に入ってきた。見上げると、橋本楓と星野心、そして黄前珊瑚たちが近づいてきていた。

先頭を歩く黄前珊瑚は魅力的な顔に微笑みを浮かべ、美しい瞳は光を放ち、軽やかな足取りで藤崎輝と夏子の前に来ると足を止めた。優しい眼差しで隣の夏子を一瞥もせず、まっすぐに藤崎輝だけを見つめて笑いながら言った。「また会いましたね、藤崎若旦那!前回はきちんとご挨拶できなくて、このお酒は特にお詫びのためのものです。まずは乾杯しましょう!」

黄前珊瑚の言葉を聞いて、夏子はハッとした。彼女が必死に隠そうとしている恋心の眼差しを見逃さなかった。夏子は心の中で一瞬驚き、興味深そうに隣の男性の方を向いた。しかし、男性は平然とした表情で、静かな水面のような目で珊瑚を無視し、まるで彼女が見えないかのように前方を見つめていた。

夏子は彼の視線の先を見ると、橋本楓と星野心が近づいてきていた。

一方、グラスを空けても返事をもらえなかった黄前珊瑚は、藤崎輝が彼女を見向きもしないこと、まるで彼女の声が聞こえていないかのような態度に、美しい顔に抑えきれない戸惑いの色が浮かんだ。特に周りの人々が奇妙な視線で彼女を見ているのを感じたとき…

彼女の顔色は沈み、橋本楓と星野心が近づいてくるのを見ると、赤面して不快な気持ちで後ろに下がった。

「おめでとうございます、藤崎取締役」