第284章 私も善人です（二）

まさか彼だったなんて！

斉藤凱の若き後継者、斉藤礼！

なぜ彼なの？

星野夏子の星のような瞳に驚きの色が走った。その時、斉藤礼は片手に力を入れながら、もう一方の手で大きな黒い傘を支え、狭い空間の大半を彼女に譲っていた……

星野夏子は一瞬固まったが、すぐに我に返り、突然視線を外して、力を込めて前に押し出した。「カチッ」という音とともに、自転車はようやく上がった。再び跳ね上がった泥水が彼女の白く繊細な顔にかかった。

前方のお年寄りは「ありがとう」と言いながら、感謝の気持ちで目を輝かせていた。星野夏子はただ軽く頷き、細い指先で前方を指し示し、早く帰るように促した。お年寄りは何度も笑顔を見せてから去っていった。

星野夏子はお年寄りが自転車に乗って遠ざかるのを見届けてから、無意識に手を上げて顔についた水分を拭おうとしたが、自分の両手が汚れていることに気づき、諦めた。

黙って両手を下ろし、ちょうど振り返ろうとした時、不意に横から白いハンカチが差し出された。夏子さんは美しい眉を上げ、星のような瞳を細めて視線を上げ、そのハンカチからその持ち主を見上げると、斉藤礼がにこやかに立っていた。

かっこよくて妖艶な顔に穏やかな表情を浮かべ、口角は少し上がり、底知れない瞳には深い光が輝き、笑うでもなく笑わないでもなく彼女を見つめていた。

星野夏子はハンカチを受け取らず、不思議そうに彼を一瞥し、以前のような警戒心に満ちた口調ではなかったが、攻撃性は弱まっていなかった。「珍しいわね、あなたも人助けをするなんて」

それを聞いて、斉藤礼は嬉しそうに笑い、大きな手で傘をしっかり握り、ハンカチを彼女の手に押し込むと、興味深そうに彼女を見つめた。「どうして？あなただけが善行を積むことが許されて、私が良いことをするのは許されないの？良い人はあなただけじゃない、私も良い人だよ！」

星野夏子は薄い唇を少し上げ、笑うでもなく笑わないでもなく彼を一瞥し、冷たい声に少しかすれた響きを混ぜて言った。「自分のことを良い人だと言う人は、たいてい動機が不純で心が暗い悪人よ。そして残念ながら、斉藤副社長、あなたは私の目にはそういう人に見えるわ」