第317章 ありがとう、夫人(その二)

「もう行ってしまったわ!」

藤崎凌子はすぐに平静を取り戻し、肩をすくめて空っぽの廊下を見やった。「彼は数年前よりもさらに謎めいた人になったわ。彼の意図が読めないわ」

「お前に読めるようなら斉藤礼じゃないさ。俺でさえ彼に会うと何を考えているのか推し量れないんだから」

須藤旭は彼女たちの前で足を止め、そう言い残した。

「輝、彼はおそらくお前を狙ってきているんだと思う。気をつけろよ。俺は出入国の情報に注意を払っているから、何か手がかりが見つかるといいんだが」

そう言いながら、彼は顔色は相変わらず落ち着いているものの、目には不安定な光を宿している藤崎輝の方を見た。「実際、あの件は終わっていないんだ。お前が戻ってきたから、彼らも我慢できなくなったんだろう。もう遅いから、俺は先に帰るよ。言っておくが、兄弟の助けが必要なら遠慮なく言ってくれ」