348章 悲しませない(一)

星野夏子は自分がどうやって最終便の飛行機に乗って東浜市へ急いだのか分からなかった。木村大輔に電話をかけた時、彼が病院の場所を言い終わる前に、夏子は電話を切ってタクシーに飛び乗った。

東浜市ではさっきの霧雨が土砂降りに変わっていた。大粒の雨が糸の切れた珠のように、狂ったように窓ガラスを叩き、耳には荒れ狂う風の唸りが響いていた。

「お嬢さん、どちらまで行きますか?」

すでに午前2時を過ぎていたが、空港の外の明かりはまだ明るく輝いていた。運転手はバックミラー越しに顔色の悪い、ぼんやりとした表情の星野夏子を見た。彼女が全身を小刻みに震わせ、服が大雨で濡れているのを見て、親切に車内の温度を少し上げながら尋ねた。

「市民病院です、急いでください、お願いします!」

星野夏子は顔についた雨を拭き取った。濡れた髪が顔に張り付き、少し惨めな様子だった。両手をきつく握りしめ、指先は白くなるほど力が入っていた。