北川雲上錦

名門の盛大なパーティーの席で、私、星野夏子の婚約者はあろうことか実の妹にひざまずき、プロポーズをした。一瞬にして相続権を奪われ、星野家からは政略結婚の駒として、まるで生贄のように差し出される運命に。

すべてを失い、心の底まで凍てつくような絶望の中、これまでの全てを葬り去ることを決意した夏子は、最後の望みをかけてある男のもとへ向かった。彼は、瑞穂市で並外れた権力を握る『清川グループ』の若き総帥、藤崎輝。誰もが近寄りがたいオーラを放つ、クールな男。

「藤崎さん、わ、私と、結婚してください」

書類の山からふと顔を上げた輝が、夏子を捉えると、静かに立ち上がった。

「行こう」
「……どちらへ？」
「急げ。役所がもうすぐ閉まる」

こうして始まった、偽りの結婚生活。けれど、ある夜――
「そろそろ義務を果たしましょうか、奥さんとして」
「そ、そんな興味がないと聞いていたのよ！？」
「さあな、試してみましょうか」
そして、甘く乱れた一夜が明け――
「藤崎輝！この大嘘つきっ……！」

契約婚から始まる逆襲

星野山は言いながら、携帯電話を取り出し、電話をかけようとした。


「やめて！やめて！お願いだからそんなことしないで！やめて！」


岡田凛子は慌てて這いつくばりながら駆け寄り、星野山の足にしがみついて、彼が電話をかけるのを阻止しようとした——


「山、やめて！山、電話しないで、かけないで！」


岡田凛子は恐怖で顔色が青ざめ、星野山の手から携帯電話を奪おうとしたが、星野山は手を伸ばして避け、冷たく彼女を見つめた。「サインするか電話するか、どちらかを選びなさい！」


「いやよ、山！どちらも選ばないわ！私は本当にあなたを愛しているの、本当に愛しているのよ！どうしてこんなことするの？どうして……」


崩れ落ちるように座り込んだ岡田凛子は、すでに涙でいっぱいの顔をし、青く腫れた顔はさらに惨めに見え、震える手で床に落ちた離婚協議書を拾い上げた……


「山、私、直すわ。これからは何でもあなたの言うことを聞くから、離婚だけはしないで、お願い……離婚したくないの……」


岡田凛子がまだ最後の抵抗をしようとしていたが、星野山の手の中の携帯電話はすでに発信されていた——


「もしもし？大野弁護士……」


「やめて！山！やめて！電話しないで！サインする！サインするわ！サインする……」


岡田凛子は慌てて床に落ちたペンを掴み、慌ただしく協議書にサインした……


「サインしたわ、山、サインしたから……電話しないで、もうサインしたから……」


'パタン'という音と共に、岡田凛子の手からペンが落ち、彼女も全身の力が抜けたように床に座り込み、崩壊寸前のように涙を流し続けた。


星野山は電話を切り、ゆっくりと身をかがめて離婚協議書を拾い上げ、岡田凛子のサインを確認すると、目の中の冷たさがわずかに和らいだ……


彼の傷だらけの心はとっくにこの恩讐の間で灰になっていた。今、すべてが解放された。もし彼が振り返って再び追いかけるなら、彼の心は灰の中から再生するだろうか？


彼の心は一本の草、その根は深田文奈のところにある。深田文奈が生きろと言えば生き、死ねと言えば死ぬ！


ナナ、私は戻ってきた。何も持たないこの私を、あなたはまだ愛してくれるだろうか？


あなたが受け入れてくれるかどうかに関わらず、今度こそ、私は必ず自分の約束を果たす……


第396章 離婚協議書（3）

第396章離婚協議書（3）