心の底に沈んでいた不愉快な気持ちは、この子の到来によってすっかり消え去った。藤崎輝は落ち着いた様子で星野夏子を抱きかかえ、病院を出たとき、外はちょうど街灯が灯り始める頃だった。車は道路脇の一時駐車スペースに停まっていた。
彼らが近づいてくるのを見ると、黒服のボディガードがすぐに車のドアを開けに行った。
「木村さん、桐子に電話してください。ええ、今日は彼女も大変だったから、早く帰るように言ってください。あとで荷物を届けてもらえばいいです」
車に乗り込む際、星野夏子はそう言い残した。
「かしこまりました、奥様!」
木村大輔は笑顔で応じた。珍しく若旦那の目に隠しきれない優しさが宿っているのを見て、あの慎重な様子からすると、きっと良い知らせがあったのだろうと思った。早く会長にも知らせて、皆で喜ばなければと考えた。
藤崎輝は率直に事の顛末を彼女に簡単に説明した。佐藤警部の話とは少し違いがあったものの、大筋は同じだった。
「天と斉藤峰、斉藤礼、それに古川沙織はいい遊び仲間だった。天はちょうど彼らと同級生だったけど、崎岡市の中学校ではなく、西川中学だった」
星野夏子を座らせ、クッションを背中に当てながら、彼は一生懸命思い出そうとした。
「西川中学?」
星野夏子は小さな声で繰り返し、小首をかしげてしばらく考えてから驚いて言った。「あそこは市内でも有名なお金持ちの学校でしょう?崎岡市の中学校と実力は互角だけど、ほとんどが貴族の子弟が集まる場所だった」
藤崎輝はうなずいた。「彼と凌子、それに真はみんなその学校で学んでいた。僕と須藤旭、渡辺薫は崎岡市の中学校だった。だから彼らの関係は良好だったけど、僕は彼らより数学年上だったから、一緒に遊ぶこともなかった」
「三つ違えば考え方も違うって言うけど、確かにそうね。だから私とあなたの間にも時々世代のギャップがあるのね」
星野夏子はふと思い出した。この男性は自分より3、4歳年上だ。時々彼は夫というより、父親や兄のような存在に感じることがある。特に彼が諭すように何かを説明するときには。
「僕たちの間にどんなギャップがあるの?すべてうまくいってるじゃないか」