藤崎輝は挨拶をすると、ソファにくつろいで座り、自ら茶を注いだ。
「朝早くからこんな大騒ぎして、みんな随分と上機嫌だね」
藤崎輝は茶をひと口すすり、顔を上げて向かいの藤崎川を一瞥した。
「喜ぶべきことなんだから、大騒ぎしたって何も問題ないだろう。お前はこのことを私たちに早く言わなかったな、まだ勘定してないぞ!これから父親になる人間なんだから、父親らしくあるべきだ」
いつでも藤崎川は儒雅で威厳のある様子を崩さない。「星野夏子のあの件については、さっきお前の祖父と分析したところだが、誰かの仕業だということもわかっている。自分で気をつけるんだ。最近起きたことは少なくないが、あまり詮索したくはない。お前が自分でわかっていればいい」
「ああ、わかってる」
藤崎輝はあまり説明したくなかったので、黙って頭を下げ、手の中の茶碗を見つめた。
「お前が叔母さんの件を再調査していることも聞いた。星野夏子が紗蘭さんを訪ねたのも本当か?」
藤崎川は手の動きを止め、さらに尋ねた。
それを聞いて、藤崎輝は茶碗を置き、少し体を斜めにしてソファに軽く寄りかかり、習慣的に長い指先で少し重たい額を支えた。「凌子はずっと自分の出自を知りたがっていた。この件をずっとこのままあいまいにしておくわけにはいかない。叔母さんと凌子たちに申し訳が立たない。どんな理由があろうとも、代償を払うべきだ」
低い声色には冷たさが感じられた。
「この件については私も以前から心を砕いてきたが、結局その人物を見つけることはできなかった。お前の叔母さんの意思がそうだったから、私とお前の母さんも後にはあきらめるしかなかった」
藤崎渓の件は、藤崎家では皆の心の痛みとなっており、家族でもめったに触れることはなかった。今日、藤崎川がわざわざ話題にしたということは、きっと何か考えがあってのことだろう。
「ああ、お祖父さんとお祖母さんはこの件について触れなかったけれど、心の中ではきっとそう思っていたんだろう。当時、叔母さんが天を身ごもっていた時、お祖母さんは怒りのあまり、叔母さんと母娘の縁を切り、家から追い出そうとしたほどだった。叔母さんが事故に遭った後、お祖母さんは毎日涙に暮れていた。その後立ち直って、凌子を育て上げるために苦労を惜しまなかった」