第546章 タダ飯タダ酒

夕食はかなり豪華だった。もともと藤崎輝が特別に星野夏子のために作ったもので、すべて星野夏子の好物だった。

最近は疲れが溜まっていて、彼女がすっかり痩せてしまったのを見て、藤崎輝もとても心配していた。考えた末、彼女の口に合う美味しい料理をいくつか作ることにした。

斉藤礼は色・香り・味すべてが揃った食卓を見て、一瞬呆然とし、とても驚いて向かい側の藤崎輝と星野夏子夫妻を見上げた。まさかこれらの料理が堂々たる藤崎若旦那自ら作ったものだとは信じられなかった!

藤崎輝とは何者か?

清川の権力者であり、藤崎家の御曹司。彼を見れば高貴で優雅、清廉で遠い存在という印象なのに、料理ができるなんて、しかもこんなに上手に?

斉藤礼は少し信じられない様子で藤崎輝をしばらく見つめていた。同じ名家の子息として、彼はその衣食住すべてが用意される生活をよく理解していた。彼の母親である大野琴子は彼をキッチンに立たせることは決してなかった。ただキッチンを散らかすだけだと思っていたからだ。

斉藤礼は考えてみると、藤崎輝は彼らとは少し違うことを思い出した。野戦部隊で経験を積んだ人物で、彼と一緒にいたのは須藤旭や渡辺薫など、瑞穂市の三大公子だった。普段は控えめで深みがあり、社交界ではめったに姿を見せず、その姿を見つけるのは難しく、まるで神出鬼没だった。ましてや何らかのパーティーで彼らを見かけることなどほとんどなかった。

渡辺薫はたまに見かけることがあったが、この藤崎輝と須藤旭は何百年に一度も顔を出さないほどで、多くの重要な場では、通常は清川の副社長である松尾涼介か佐藤蘭が代理で出席していた。

斉藤礼は今や斉藤凱の副社長であり、実権のある副社長ではないにしても、こうした場には頻繁に出席していたので、当然よく理解していた。

「藤崎輝、君は本当に驚きだよ。なるほど……」

目の前の美味しそうな料理を見つめながら、斉藤礼の目は少しぼんやりとしていた。その夢見るような眼差しは遠くを見ているようで、何を考えているのかわからなかった。

藤崎輝は優雅に隣の星野夏子にフルーツジュースを注ぎ、それから片手で近くのウイスキーを取り、端正な眉を上げて斉藤礼を見て、低い声で言った。「ウイスキーでいいかな?」

藤崎輝の声を聞いて、斉藤礼はすぐに我に返り、うなずいた。