どうして私を縛り続けるの

処女を失ったことは、彼女にとって大きな打撃だった。心の言葉を聞いて、思わず言い返した。

「辰也がそんなにいいなら、あなたが行けばよかったじゃない。なんで今回のチャンスを自分で掴まなかったの?」

心は怒るどころか笑みを浮かべた。「若菜、あなたたち兄妹はうちの家で十数年も食べて住んできたんだから、少しくらい恩返しするのが当然でしょ。それに、私たちの家は慈善団体じゃないんだから、ただで人を養うわけにはいかないのよ。言わせてもらうけど、私たちはあなたのことを考えて動いたのよ。あの家に嫁げば、何ひとつ不自由のない暮らしができるんだから、感謝されてもいいくらいでしょ?」

若菜は呆然としたまま、思わず聞き返した。「それって、どういうこと?」

娘がすべてを話してしまったのを見て、明彦は若菜にもう何も隠そうとはしなかった。

「若菜、今回は本当にありがたく思うべきだよ。お前には最高の相手を見つけてやった。それが辰也だ。たしかに、お前はあいつに体を奪われたことを怒っているかもしれない。だが、もう気にするな。これから正式に結婚して、彼の妻になるんだからな」

「あなたたち、本気で私を辰也に嫁がせるつもりなの?あんな、私を無理やり犯した男に!」

慧子は不機嫌そうに言った。「そんな耳障りなこと、言うのはやめなさい。藤堂さんは数千億の資産を持つ大富豪よ。そんな彼に嫁げるなんて、あなたは前世でよほど徳を積んだのね。あなたの体と引き換えに藤堂家の奥様の座を手に入れたのよ。むしろ損をしたのは藤堂さんの方なんだから」

若菜はようやくすべてを理解した。

彼らは本当に、彼女を売り渡したのだった。

それも、徹底的に。彼女を利用して辰也との契約を結ばせただけでなく、この家からも追い出すことに成功したのだ。

「ふん、あなたたちの策略は本当に巧妙ね!」若菜は歯ぎしりしつつ言った。

彼女は涙をぬぐい、心の痛みを必死に抑えながら、冷たく言い放った。「言っておくわ、私は絶対に辰也なんかに嫁がない!あなたたちが私のここにいるのを嫌うなら、今すぐ出ていくわ!」

「お姉ちゃん!」ずっと彼らの会話を盗み聞きしていた安藤吉(あんどう よし)が飛び出してきて、泣きながら彼女の腰に抱きついた。「お姉ちゃん、一緒に行くよ。僕を置いていかないで!」

「安心して。お姉ちゃんは絶対にあなたを置いていかないよ。どこへ行くにも、必ず一緒に行くから」若菜は彼の手をしっかり握って、立ち去ろうとした。

明彦は突然、後ろから吉を無理やり引き離し、冷たく言い放った。「若菜、辰也と結婚するかどうかはお前の自由にはさせない。もし結婚しなければ、吉を海外に送り出して、二度と会えないようにするぞ」

若菜は驚きに満ちた表情でおじさんを見つめ、その姿はまるで見知らぬ人のようだった。

「おじさん、あなたはもう私を利用して、欲しいものを手に入れたでしょう。どうしてまだ、私を解放してくれないの?」

「お前が辰也と結婚しなければ、第二次の資金調達は実現しない。若菜、もう彼に体を許したのだから、いっそ最後まで良い人になって、彼と結婚してくれ。そうすれば、おじさんの会社は確実に資金を手に入れられるんだ」明彦は厚かましく言い放った。

「若菜、よく考えなさい。吉が海外に送られたら、生きるか死ぬかは運次第よ」心は甘い笑みを浮かべたが、その目には得意げな光が宿っていた。

彼女は若菜を憎んでいた。若菜が、自分よりも美しいからだ。

学校では若菜のほうが人気で、彼女がいる場所では誰も彼女に関心を示さなかった。

若菜の存在は、彼女にとってまるで悪夢だった。

若菜を徹底的に破滅させ、苦しめることでしか、彼女の心は晴れなかったのだ。

若菜の顔から血の気は引いていたが、その瞳は強く、決して折れなかった。「あなたたちに吉を海外に送る権利なんてない。私は彼の姉よ。彼を連れて、ここを出ていくわ!」

それに、吉は海外には行けない。喘息を持っていて、いつ命の危険が訪れるかわからないのよ。