彼女を自ら破滅に陥らせる

夜が訪れた。

若菜が気絶から目を覚ますと、部屋にはすでに辰也の姿はなかった。

床には乱れた服が散らばり、部屋にはまだ艶やかな余韻が残っていた。

昨晩の屈辱と惨めさが、その場に色濃く残っていた。

ベッドの横には、一式の服がきちんと置かれていた。彼女のために用意されたものだ。

若菜は涙をこらえ、唇を強く噛みしめながら急いで服を身にまとった。

この場所には、もう一刻も居たくなかった。彼女は辰也を訴え、必ず彼に痛い代償を払わせるつもりだった!

視線が突然、テーブルの上の契約書に落ちた。辰也はすでにそこにサインしていた。ある考えが彼女の頭をよぎり、彼女は何かを理解した。

若菜は顔色を青ざめさせ、慌てて契約書を掴むと、そのまま家へと急いだ。

まるで約束でもしていたかのように、今日はおじさんとおばさん、そして従姉妹が全員リビングに揃って座っていた。

若菜が帰ってくると、安藤明彦(あんどう あきひこ)は急いで彼女の手から契約書を奪い取り、サインを確認すると、すぐに笑みを浮かべた。

「若菜、さすがだな。おじさんのためにこの取引を成功させてくれたんだな。おじさんにどう感謝してほしい?何かプレゼントを買ってあげようか?」

「本当に…あなただったの!」若菜は体を震わせ、信じられない思いを目に浮かべていた。

なぜ彼が彼女に契約を結ばせたかったのか――それは、女を売り渡して栄達を求めるためだったのだ!

明彦の少しも悔いていない表情を見て、若菜は心が冷え切り、こう言った。「おじさん、私はあなたの実の娘じゃないけど、少なくともあなたの姪よ。どうしてこんなことができるの?あなたの良心はもう犬に食われたの?!」

明彦は急に顔色を変え、低い声で言った。「若菜、それが目上の人間に対する口の利き方か?」

「あなたなんか、目上の人間だなんて思ってません!」

彼女と弟を育ててくれたことに感謝していたし、心の中では誰よりも親しい年長者だと思っていたのに。

まさか、たった一つの取引のために彼女を差し出すなんて、思ってもみなかった。

若菜の心は憎しみで満ちていた。しかし、それ以上に深い痛みがあった。親族に裏切られたという、どうしようもない痛みが。

若菜をもともと好まなかった田中慧子(たなか けいこ)は、突然立ち上がり、彼女を指さして怒鳴った。「若菜、なんて不孝な子なの!私とおじさんが、あなたたち兄妹をここまで育ててやったのに、感謝の一言もなく、こんな口をきくなんて…この恩知らずめ!」

「ふん、恩知らずですって?女を売って出世を狙ったのは、あなたたちのほうでしょ。自分たちが何をしたか、ちゃんとわかってるはずよ!」

若菜の胸には怒りが膨れ上がっていた。吐き出さなければ、息ができなくなりそうだった。

「あなたたち、辰也が私に何をするか知っていて、それでも私を騙したのね。一体、何を考えてたの?たった一つの取引のために、私を犠牲にするつもりだったの?」

考えれば考えるほど、若菜の胸は締めつけられるように痛んだ。

ずっとこらえていた涙が、ついに溢れ出した。

両親が亡くなってから、こんなに悲しくて辛いことはなかった。

「もういいじゃない。処女を失っただけで、何をそんなに委縮してるの?」

従姉妹の安藤心(あんどう こころ)は苛立ちを隠せず、彼女を睨みつけながら軽い調子で言った。「若菜、辰也みたいな男とベッドを共にしたくらいで、あなたは全然損してないわよ。どれだけの女が辰也のベッドに上りたがってるか、分かってる?今回のチャンスをもらえたのは、むしろあなたが得したようなものよ」

若菜は怒りで言葉を詰まらせ、胸が締めつけられるように痛んだ。

処女を失ったことは、彼女にとって大きな打撃だった。心の言葉を聞いて、思わず言い返した。

「辰也がそんなにいいなら、あなたが行けばよかったじゃない。なんで今回のチャンスを自分で掴まなかったの?」

心は怒るどころか笑みを浮かべた。「若菜、あなたたち兄妹はうちの家で十数年も食べて住んできたんだから、少しくらい恩返しするのが当然でしょ。それに、私たちの家は慈善団体じゃないんだから、ただで人を養うわけにはいかないのよ」