第29章 これがキスというものだ

「辰也さま、お願いです……私は吉なしでは生きられません、罰するならわたしを罰してください、どうか彼を許してくださいませんか……」

安藤若菜の顔は涙でいっぱいで、安藤吉の心はとても苦しかった。まるで誰かにナイフで何度も刺されたかのように、すぐにでも死にたいほど痛かった。

「姉さん……彼に頼むのはやめて……僕を……死なせてくれ……」

「死んじゃだめ！」安藤若菜は鋭く恐怖に満ちた叫び声を上げた。その叫びに、その場にいた全員の心臓が跳ねた。

藤堂辰也は身を乗り出し、一本の指で彼女の顎を持ち上げ、涙で濡れた小さな顔を見つめた。彼は軽く微笑んだ。「若菜、さっきもし彼を許すなら何でも言うことを聞くと言ったね？」

安藤若菜は急いで頷いた。「はい、何でも言うことを聞きます！」

「君のプライドも、原則も、そして貞操を守るという固執も捨てるのか？」

「はい！」彼女の答えは非常に確かだった。

吉が無事でいられるなら、そんな固執など何の価値があるだろうか。

藤堂辰也は満足げに微笑み、彼女の体を引き上げた。安藤若菜は彼が何をしようとしているのか分からなかったが、従順に彼の隣に座った。

男は彼女の白く柔らかい手を撫で、魅惑的な黒い瞳で彼女を見つめ、低く甘い声で言った。「もし今すぐ私を喜ばせろと言ったら、できるかな？」

安藤若菜はぼんやりとし、恥ずかしさと怒りで青ざめた顔に少し赤みが差した。

ここで彼を喜ばせるの？

ここには大勢の人がいる。彼は意図的に彼女を辱め、困らせようとしているのだろう。

安藤若菜は呼吸がますます困難になっている安藤吉を見た。彼女の目に決意の光が閃いた。

「いいわ！」躊躇なく藤堂辰也の首に腕を回し、安藤若菜は震える唇で彼の魅惑的な薄い唇にキスをした。

彼女はキスの仕方を知らなかったので、自分の想像だけを頼りに、彼の唇を含み、ぎこちなく無作法にキスをした。まるで何も知らない赤ん坊のように、真似をしようとするが、それでも幼く愛らしく、嫌われることはなかった。

藤堂辰也は半ば目を伏せ、深い眼差しで彼女を見つめていた。

安藤若菜は軽く目を閉じ、長くカールした睫毛が微かに震えていた。まるで雪原で羽ばたく黒い蝶のように、自然で美しい風景を作り出していた。