ただこの子供が彼のせいで失われたと思うと……
彼の心には、まるで棘が刺さっているようで、軽く触れるだけで痛みを感じるのだった。
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予想通り、安藤若菜は流産した。
手術室で30分ほど過ごした後、彼女はVIP病室に運ばれた。
藤堂辰也は使用人に服を持ってこさせて着替え、そのまま病床の傍らに座り続け、暗い眼差しで昏睡中の安藤若菜を見つめ、何を考えているのか分からなかった。
その夜、外は一晩中激しい暴風雨で、雷鳴が轟いていた。夜明け近くになってようやく嵐が収まり、太陽が東から昇り、再び晴れた良い天気となった。
安藤若菜が目を覚ましたのは正午頃だった。
目を開けると、最初に見たのは病院の真っ白な天井で、空気には消毒液の匂いが漂っていた。
彼女は突然、夢の中の光景を思い出した。夢の中で、藤堂辰也が彼女を背負って大雨の中を走り、彼女のお腹が痛み、子供が少しずつ消えていくところだった。
いや、それは夢ではなく、現実だった。
安藤若菜は手を伸ばして下腹部に触れた。空っぽで、とても平らだった。確かに子供はいなくなっていた。子供がいた時は、特に何も感じなかった。
でも子供がいなくなると、彼が本当にいなくなったことを感じることができた。
まるでいくつかのものは、それが消えた時にだけ、ずっとそこに存在していたことを知り、その重要性を理解するようなものだった。
しかし彼女はそれほど悲しくなかった。子供がいなくなったなら、それでいいのだ。
おそらく彼は本当に生まれるべきではなかったのか、あるいは彼と彼女には縁がなかったのかもしれない。
それでも、彼女の心はまだ少し痛み、何か辛かった。目が酸っぱく痛み、安藤若菜は目を閉じると、予告もなく目尻から一筋の涙が流れ落ちた。
指が彼女の涙を拭い取り、彼女は目を開け、横を向くと、藤堂辰也の漆黒の瞳と目が合った。男は唇を引き締めて彼女を見つめ、何も言わず、瞳の色は深かった。
安藤若菜は無表情で彼を見つめ、突然冷たく言った。「あなたは殺人犯よ!」
藤堂辰也の瞳が微かに動き、彼女はさらに言った。「あなたが彼を殺したのよ!」
彼はまだ何も言わなかった。