第10章

三人の顔には疲れの色が浮かんでいた。

中央の若い面接官は終始顔を上げず、ただ机の上の井上千雪の履歴書に目を通していた。

千雪は一瞬たじろいだが、静かに深呼吸すると、落ち着いた手話で自己紹介を始めた。

両側の面接官の目から光が徐々に消え、深い失望と惜しむような表情に変わっていくのを感じながら。

心が少しずつ冷めていくのを感じた。

「どうしてまだ話さないのか?」中央の男性がようやくいらだちながら顔を上げたが、目の前の女性を見た瞬間、言葉を失った。

葉野宿白はその大きな瞳を見つめて呆然となった。秋の湖水のように澄んだその瞳に宿る、無力さと強さが奇妙に混ざり合った眼差しに、なぜか胸を打たれて、言葉が出なくなったのだ。

ビジネススーツに身を包んだ彼女は確かに職場の華と呼ぶにふさわしかったが、何よりその瞳の清らかさが際立っていた。

今、その瞳で葉野にチャンスを乞うように見上げている。懇願しながらも、どこか凛とした尊厳を保っている。

隣の常田監事が肘で彼を突いた。「社長、彼女は聴覚障害者です。神戸大学経営学部卒とはいえ、やはり条件に合いません」

葉野宿白は我に返り、千雪の履歴書を確認した。応募職種は社長秘書だった。

清潔な顎に手をやり、少し考え込んだ。

一方の千雪の手のひらには冷や汗がにじんでいた。「この仕事がどうしても必要なのです。話せませんが、その分努力で補います」急いで手話で訴えた。

彼女は瞳の中の無力感を押し殺し、手話で続けた。「神戸大学で秘書学を専攻し、全ての科目を修めました。専門知識には自信が...」

ふと、緊張が解けていくのを感じた。

「どうかこのチャンスを」

二人の管理職は首を振り、ため息をついた。美しく、高学歴なのに...口がきけないとは…

手話も読唇術も理解できない彼らには、千雪の必死の訴えは伝わらない。

ただ、黒曜石のようなその瞳の輝きだけが強く印象に残った。

葉野宿白だけは違った。彼女の手話を理解し、心の声を受け止めていた。

自信に満ちた決意の眼差しが、彼の心を捉えて離さない。再び引き込まれている自分に気いた。

しばらく考えて、彼はようやく口を開いた。「井上千雪さんですね。試用期間を設けましょう。応募は社長秘書ですが、諸事情を考慮し、まずは秘書課で事務秘書として働いてもらいます。問題ありませんか?」

千雪はすぐに椅子から立ち上がり、深々と頭を下げた。

問題どころか、事務秘書は確かに秘書職の中では最も低位のポジションだが、この機会を得られただけでも天に感謝すべきことだった。

目を上げると、彼女の瞳は少し潤んでいた。

「ありがとうございます。必ず頑張ります」手話で葉野宿白に伝えるその仕草は、誠実さと決意に満ちていた。

やっと一歩前進できた。おばあさんとの二人暮らしももうすぐだ。

葉野宿白は喜びに輝く彼女の表情を見つめ、思わず見入ってしまった。

一方、冷泉辰彦は車を走らせながら、神戸市随一の希望橋を通過した。窓の外を見やるその瞳に、一瞬かすかな哀愁が浮かぶ。

四年前、雨の夜、希望橋。

二年間交際していた雲井絢音が別れを告げた場所だ。彼女の望むものを与えられないという理由で。

その後、彼女は海外へ旅立ち、音信不通となった。

そして同じ夜、彼はこの橋で孤独無援の井上千雪を拾った。

橋の欄干を見ると、今でもあの日井上千雪が絶望的に踊っていた光景が鮮明によみがえる。

色あせた服を着た千雪が、素足で橋の上に立ち、黒く輝く長い髪を風になびかせている。横顔には迷いと絶望が刻まれていた。

一瞬、彼女が橋から飛び降りるのではないかと思った。しかし彼女は突然雨の中にしゃがみ込み、絶望的に泣いていた。

その時、彼は彼女に同情を覚え、思わず声をかけた。

涙でいっぱいでありながら、非常に強さを秘めたその大きな瞳を見た時、彼は胸を衝かれるような感覚を覚えた。

この感覚は四年経った今でも忘れられない。

麗由と同年代ながら、あの決然とした眼差しは他に類を見ないものだった。

その後、彼は彼女のことを調べてもらった。

神戸近郊の漁村で、病弱なおばあさんと賭け事好きの叔父と暮らしていると。

貧しく無口な娘で身を慎んでいた。これはまさに彼が求める妊娠適性に完璧に適合していた。

視線を前に戻し、辰彦はハンドルを握り直した。

昨夜すでに関係を持った以上、彼はできるだけ早く彼女を妊娠させようと考えていた。これ以上の関わりは一切必要ない。

アクセルを踏んで加速し、車は冷泉へと急いだ。

「冷泉社長」受付嬢が彼の姿を見つけると、甘い声で挨拶し、恭しく頭を下げた。月のように丸い目を笑わせ、憧れの眼差しを向けてきた。

「ああ」冷泉辰彦は淡々と頷くと、長い足で専用エレベーターへと歩み去った。

ちょうどエレベーターの扉が閉まる瞬間、隣のエレベーターが「ピン」と音を立てて開いた。

井上千雪はエレベーターから出てきて、小さな顔に輝きが満ちていた。

彼女は受付嬢に軽く会釈すると、駐輪場のヤマハへと向かった。

三日後からここで働き始める。試用期間だからこそ、万全の準備が必要だ。

バイクを走らせながら、まずはスーパーで新鮮な果物や野菜、牛乳、パンを購入し、いつも利用する小さなブティックへ。そこで体にフィットする上品な仕事用スーツを数着選んだ。

潮風に乗せて、肩まで届く長い髪が優雅になびく。その笑顔には、全身から幸福感が滲み出ているようだった。

アパートに戻ると、買ってきた食料品を手際よく冷蔵庫に収め、スーツを抱えて二階の寝室へ上がった。

ドライクリーニング、アイロンがけ、クローゼットにかける。

右手のクローゼットを開けると、あの男性が買い与えたドレスや服、様々なハイヒールがぎっしりと並んでいた。

認めざるを得ない。彼は確かに目が肥えており、そして非常に...気前が良いのだ。