第21章

彼女が退出すると、小林社長の秘書は静かにペンを置き、眼鏡の奥の冷たい目を細めた。この分をわきまえない小娘、どう死ぬか見ものだ。

千雪が社長秘書のオフィスを出たとき、手のひらには汗がにじんでいた。彼女はドアに寄りかかって深く息を吸い、激しく鼓動する心臓を落ち着かせた。

誰が彼女は怖くないと言えるだろう。この社長秘書に会うたびに、閻魔様に会ったような気分になり、拷問され、苦しめられ、全身が冷え切る思いだった。しかも今、彼女はこの秘書と対立してしまった。

「千雪、大丈夫?」萩原天凡が書類を抱えて近づき、心配そうな顔で言った。「顔色が悪いけど、社長秘書が...」

千雪は首を振った。「大丈夫よ、ちょっと緊張しただけ。天凡、何しに来たの?」

「これらの書類を社長秘書に届けに...千雪、本当に大丈夫?昨日のことで?」

千雪はただ淡く微笑むしかなかった。「天凡、本当に大丈夫だから。もう行くわ、仕事があるから」そう言って彼女は事務秘書室へと急ぎ足で向かった。

そして午前中ずっと彼女は午後の会議の準備に追われた。経験がないため、てんてこ舞いだった。会議室の準備が整ったときには、すでにランチタイムになっていた。

彼女は腹の空きを我慢しながらパソコンの前で報告書を作成し、自分の見解をまとめた。どうすればいいのだろう?どうすれば皆に彼女の手話を理解してもらえるだろうか?彼女の視線は書類に固定されたまま、一瞬頭が空白になった。

この点について彼女は心配せざるを得なかった。報告書の分析はできる、大学で秘書学を専攻していたからだ。しかし彼女は手話でしか人とコミュニケーションが取れない...

「千雪、本当に寝食を忘れて働いているんだね。食堂で見つからないはずだ」突然、爽やかな男性の声が彼女の思考を中断させた。

千雪は顔を上げ、驚いた。葉野社長?彼女は急いで立ち上がり、お辞儀をして挨拶した。

葉野宿白は彼女のパソコン画面をちらりと見て、笑った。「小林社長の秘書が本当に君を試しているようだね...以前経験がないんだよね?」

千雪は驚いて頷き、その後手話で補足した。「経験はありませんが、全部やり遂げます」

「大丈夫だよ、緊張しないで」葉野宿白は優しく笑いながら言った。「さあ、ランチに行こう。私のおごりだ」

「でも資料の準備がまだ...」