彼女は同じ色の白いバッグを肩にかけて病棟に入り、おばあさんが高級看護師に車椅子を押してもらい、庭園を散歩しているのを見た。体調はすでに少し回復していた。
近づいてくる彼女を見ると、おばあさんの少し血色が戻った顔に花が咲いたような笑みが広がった。「千雪、来てくれたのね。早くこちらに座りなさい。おばあさんはずっとあなたのことを思っていたのよ」
千雪はしゃがんでおばあさんを抱きしめ、看護師に下がってもらってから、木のベンチに座った。彼女は今回、おばあさんを療養院に連れて行って静養させるつもりだった。
医師によれば、今一番大切なのはおばあさんに良い環境で静養してもらうことで、それが病状に良い影響を与えるという。おばあさんにどれだけの時間が残されているか、医師も彼女も分かっていた。今回の手術でせいぜいおばあさんの命が2、3ヶ月延びるだけだった。
2、3ヶ月か。あまりにも短い。おばあさんは彼女のお腹の子供を見ることさえできないだろう。しかもこの期間、おばあさんは病の苦しみに耐え続けなければならない。そう思うと、彼女はおばあさんの手をきつく握り、鼻が痛くなり、心が締め付けられるように痛んだ。
「辰彦は来なかったの?」おばあさんは千雪の手を握り返しながら、とても気に入っているこの姪の夫のことを尋ねた。千雪を辰彦に任せれば安心だと思っていた。
千雪は首を振った。おばあさんには言えなかった。冷泉辰彦は彼女の夫ではないこと。さらには、彼女がここに来る途中で、彼が別の女性と昼食に行くのを見たことも……
「彼は仕事中で、忙しいの」彼女はそうおばあさんに伝え、手に持っていた選んだ療養院の写真をおばあさんに見せ、意見を求めた。
「環境は確かに良いけど、高すぎるわ。千雪、おばあさんは病院にいるから、もうお金を使わないで」おばあさんは写真を置き、老いた目に心配の色が浮かんだ。姪と姪の夫にこれ以上無駄なお金を使わせるわけにはいかなかった。自分の体のことは自分が一番よく分かっていた。
「おばあさん、心配しないで。高くないわ。環境も良いし、おばあさんが快適に過ごせるなら……」千雪は急いで説明したが、おばあさんがまだお金のことを心配しているのを見て、それ以上は言わず、おばあさんの車椅子を押して病棟に戻り、強引に退院手続きをした。